第29話 闇夜の襲撃と喰手
◆◇◆◇◆◇
大地を照らしていた太陽が地平線の向こう側へと消え、夜の帳が下りる時間帯。
明日からの護衛依頼中の夜の見張りなどの時の読書用にと、アルグラートにある本屋と露天商を巡って、新書と古書問わず本を買い漁った帰り道。
店仕舞いを始める寸前で値下げされていた屋台の焼き鳥を纏め買いし、宿泊している白銀の月花亭へと帰る前に真っ暗な路地裏へと足を向ける。
宿がある方角からしても近道したように見えるその動きを怪しむ者はおらず、それは追跡していた者達も同様で、自分達が誘い込まれたとも知らずにその姿を俺の前に現した。
「冒険者のリオンだな?」
「そうだけど、何か用か?」
此方を逃がさないように前方だけでなく後方にも人が現れた。
大体用件は分かっているけど状況に合わせて一応問い掛けておく。
「……随分と余裕だな」
何となくイラッとしている雰囲気を前後から感じられる。
感情を読まれる時点でコイツらは裏の者としては二流三流だな、と買ったばかりの焼き鳥を食べながら心中で独りごちる。
「んぐ。そりゃ危機を感じないからな」
その言葉を聞いて相手が殺気立つのをスルーし、抱えた紙袋の中から新たな焼き鳥を取り出して頬張る。
「竜の素材を持っているらしいな。それを我らに渡して貰おうか」
「何処の誰か分からないヤツに渡す気はないかな」
「では明かせば渡すと?」
「そんなわけないだろ。礼儀のなってない弱者に恵むような物は無いんでね」
「ーーならば無理矢理奪うまでだ!」
俺と話していた前方のリーダー以外の七人が襲い掛かってきた。
俺からすれば緩慢なその動きを眺めながら串に残っていた最後の肉を口に入れる。
「ーー
路地裏の至るところから真っ黒な影の
「な、なんだコレは⁉︎」
「動けな、むぐっ」
影の喰手は襲撃者達の身体に纏わり付くと瞬く間に簀巻きに縛りあげて動けなくする。騒ぐと通りから人が来るかもしれないので口も塞いでおく。
足のつま先から頭の天辺まで全身を影の喰手に縛られて黒い繭状態になった襲撃者達が足元に運ばれてくる。
新たに手に入れたユニークスキル【
影を触媒に具現化される伸縮自在の影の喰手は、耐久性と物理耐性が高いので魔力を伴わない攻撃ではそう簡単には破壊されず、そのパワーも本体である俺の筋力値に等しいため格下にとっては脅威だろう。
現に襲撃者達は身動き一つ取ることが出来ないでいる。
レベル格差もだが、竜肉を食ってレベル以上の
「さて、奪い尽くそうか。【
襲撃者達の能力を奪い記憶を読み取る。
無理矢理記憶を読み取っているから激痛を感じているはずだが、悲鳴は僅かにしか漏れ聞こえてこない。
黒い繭の防音性能の高さはさておき、この【捕食者の喰手】の何よりも素晴らしい点は、基本的に相手に直接触れなければ奪うことが出来ない【強奪権限】の接触判定に影の喰手が含まれていることだろう。
最低でも【捕食者の喰手】によって具現化された手の数だけ同時に奪うことが出来るようになったのは大きな利点と言える。
逆に欠点だが、喰手の数を増やせば増やすほど精密操作が難しくなる点と、『喰らう手』と言うだけあって物を喰らう能力もあるのだが、その捕食対象が無生物に限定される点が挙げられるが些細なことだ。
[保有スキルの
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
どうやら強奪時に重複したスキルが統合されてランクアップしたようだ。
鉱喰竜ファブルニルグとの戦い以来、久しぶりの新規スキルの取得に思わず笑みを浮かべてしまう。
あらかた情報は吸い出したので金銭含めた所持品を喰手越しに強奪し収納すると、八本の喰手の先端を槍のように変化させ、襲撃者の頭部を貫かせた。
貫通後、喰手は死体という無生物になった八つの黒い繭の中身を丸呑みにし、あっという間に消滅させた。
「ふむ。やはりこっちの口で喰う分ではあまり能力値が上がらないな。直接では無いとはいえ、ヒトを捕食することによる忌避感故か。或いは単純に対象の力が弱いからか」
ユニークスキル【暴食】の
この飲食する際の口は本体である俺自身の肉体の口だけでなく、【捕食者の喰手】により具現化される外部捕食器官〈喰手〉も含まれている。
以前までは竜肉と精霊水を摂取した時しか能力値が上がらなかったが、今ではそれ以外の魔物肉や
竜肉などの元来の能力値増大効果を持つ食材に比べたら増大値は格段に低いが、強くなれる手段が増えたのは素晴らしいことだ。
今食べている焼き鳥も魔物肉なため当然能力値が増大しており、この肉だと敏捷値が上がっている。
これまでに襲撃してきた者達の死体処理に喰手を使って知ったことだが、人の死体は微量だが
何というか、同じヒトまで対象になる辺りに、『大罪』系スキルだと言うことを実感させられる。
「喰手で食った物の味が伝わるとかだったら最悪だったけどな」
多少の忌避感が沸き起こったものの、幸いにも捕食器官が増えても俺の味覚は肉体の物のみなので問題はない。
まぁ、喰手は意のままに操れる換えの効く道具のようなモノだから、味覚を始めとした五感の情報が伝わらないのは当たり前と言えば当たり前なんだが。
また、喰手を意のままに操れるとは言っても同時に精密操作できるのは八つまでだ。
今回のような単調な動きでいいなら倍ぐらいまでなら操ることができる。
「さてと。ほれ」
魔法によって目の前の空間に開けた穴に向かって食い終わった焼き鳥の串を【投擲】し、穴の先で一連の出来事を離れた場所から監視していた襲撃者達のお仲間の背後の首へと突き刺した。
串の先端には【猛毒生成】によって分泌した致死毒が塗られているので即死である。
最近知ったことだが、【
ただの役に立つ検索地図という印象だったが、対隠密能力としても役に立つようだ。
銀鉱山解放作戦以降、アークディア帝国内の商人や貴族からだけでなく、他国からも竜素材の売却要望が殺到している。
ヴァイルグ侯が表立っての貴族や商人からの干渉は大体防いでくれているが、さすがに今回のような裏側からの干渉にまでは手が回っていない。
今回のような襲撃はこの一ヵ月の間幾度となくあり、おかげで【暴食】を始めとした新規獲得スキルを慣らす相手には困らなかった。
奪った情報から報復リストは作成済みなので、近くに寄ったら闇夜に紛れて襲撃させて貰うとしよう。
俺を襲った代償を支払わせなければならないからな。
【
「……何で竜の頭部になるんだろう?」
喰手の形は比較的自由にできるのだが、喰わせる際に特に形を指定しない場合、何故か喰手の先端が竜の頭部を模るのだ。原因は不明だ。
真っ黒な竜の頭部が口を開閉する度に死体が削れていく。
大きく口を空けて獲物を丸呑みにしている様子を見ていると、何だがペットに餌をやってる気分になる。
ペットのエサやりという名の証拠隠滅を済ませると、襲撃者達が現れた時から発動させていた人避けの結界を解除し、今度こそ真っ直ぐ宿へと帰った。
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