第22話
「あぁ・・・疲れた・・・・」
部屋に戻り、楽なドレスに着替えソファーに倒れ込む様に座った。
「珍しいですね。トリス様がこれしきの事でバテるなんて」
そう。はっきり言ってこれくらいでバテる私ではない。
でも、今日は体力以上に精神がゴリゴリ削られたのだ。
自分の感情を殺そうとすればするほど、反対に気になってしょうがない。
そしてついつい、アイザックの事を考え意識してしまっていた。
後ろから抱きしめられる様に同じ馬に乗り、振り向けば口付けできそうなくらい近い場所にある顔。
ドキドキしてしまう。
何で急に此処まで意識してしまうのか。その原因を考えて、思い当たる事といえば・・・
将軍が結婚話を出して意識させられたこともあるのだが・・・一昨日よりも昨日。昨日よりも今日。アイザックからのスキンシップが増えたのだ。
これまでもどちらかと言えば多かったとは思う。
だが、馬上でのアイザックは、いつもの彼と一味も二味も違っていた。
何と言うか・・・彼の醸し出す雰囲気がいつもと違って、艶のある甘さだったから。
いや、もしかしたら同じなのかもしれない。単に自分の感じ方・・・アイザックに対しての気持が今までと違うから、そう感じるのかもしれない。
ならば、彼は何も変わってはいなくて、私だけが変わったのか。
そう考えると今度はアイザックの気持ちが気になる。アイザックは私をどう思っているのか・・・と。
そして、私はアイザックを、どう思ってるのか。
あぁ・・・何か恋愛小説みたい。
読んでいた時は「何ではっきり言わないのよ!」だとか「此処までやられたら、相手の気持ち普通気付くでしょ」とか、思ってたしイライラしてた。
今まさにそうじゃん・・・・それに、全く気持ちを抹殺できてない!どちらかと言えば膨張してるわ。・・・・ダサいわ、私。
・・・・・好きなのかな?アイザックの事・・・・
余りにも長く一緒にいすぎて、それが普通になってて、離れるなんて事一つも考えて無かった。
私に触れる手はいつも優しく労わり、向けられる笑顔はとても安心する。
紡がれる言葉は私の気持を汲み取ったものばかりで、彼がいなければ王女と言う立場であるのに、これほど自由に出来なかったと思う。
もし彼が誰かと結婚して、私の前から居なくなってしまったら・・・・私、死んじゃうかも・・・
色々考えて着地点はいつもここ。
やっぱり、アイザックの事が好きなのかも・・・・
兄とか家族とかじゃなくて・・・・ヤバいわ・・・私、気付くの遅すぎかも。
はぁぁぁ・・・・
考えすぎてだらしなくもソファーに倒れ込んでぐったりしていると、アイザックが戻ってきた。
何だか顔を見られなくて、思わず背もたれの方へと顔を向けてしまう。なんか、気まずい・・・
「ビー、眠いの?」
いえ、眠くありません!
「・・・・せっかくこの町の名物、フルーツタルトを貰ったのに・・・」
「えっ!食べる!食べる・・・・はっ!」
色気より食い気・・・仕方ないのよ!この町のデザートはとても有名で、特にフルーツタルトは絶品!わざわざ国を超えて買いに来る人もいる位なのよ。
よって、売り切れ必至。それで釣るなんてっ!
思わず頬を膨らませて睨み付けるけれど、アイザックの顔を見た途端、表情が崩れてしまった。
「ビー、どうしたの?具合でも悪い?」
そう言いながら額をくっつけて熱を測る、アイザック。
ひゃあぁぁぁぁ!近い!近い!
「熱はないみたいだけど、顔が赤い。疲れが出たのかな?」
そう言って私を抱き上げ、そのままソファーに座り直した。
つまりは、又も膝の上。
思わずミラを探すけれど、いつの間にかお茶とフルーツタルトを準備し、部屋から出て行った後だった。
「え?アイク?何してるの?」
これまでずっと一緒にいたけど、膝の上は先日が初めてだったのよ!
やっぱり、アイザックのスキンシップが今までと明らかに違うわ。
私の勘違いじゃないわよ、これは・・・
きっと顔は赤いままの私があたふたしているのを、アイザックはどこか嬉しそうに見ていたが、急に表情を改めた。
「ビー、話があるんだ」
「え?うん」
まさか、結婚の話!?聞きたくないわ・・・
「まずは、色々な誤解から解いていきたいと思う」
思っていた事と違う言葉に思わず「へ?」と、間抜けな声が出た。
「ビーは俺の事を、恋多き男と信じているようだけど、今まで誰とも付き合った事無いから」
「え?・・・・だって、色々聞こえてきたけど・・・・」
これまで、何人かの令嬢にアイザックとの交際を匂わせる話をされた。
中には、私からアイザックを解放しろ!という人もいて、結構悩んだ時期もあったのよ。
それとなくアイザックに私の近衛騎士を辞めたいか聞いた事があって、その時はめちゃくちゃ不機嫌になった事を覚えてるわ。
今考えると、『それとなく』じゃなくて『はっきり』聞けばよかったんだけど、出来なかったんだよね・・・
辞めたいって肯定されるのが怖くて・・・・
多分、彼が側に居てくれるのが当たり前すぎて、好きだという気持ちに気付けないでいたのかもしれない。
失って初めて気付くってやつね。私は幸いな事に、まだ、失ってないけど・・・・
「それは、勝手に言ってるだけ。俺は好きでもない女と付き合う事はない」
アイザックの言葉に、心臓が跳ねる。
その先の言葉が怖くて。
「俺が好きなのは、ビーただ一人だから」
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