第5話
嫁いだ初日から、嫌がらせをされた事は言うまでもない。
何というか、想像を裏切らないというか・・・クズばかりだった。
ただ、私も黙ってはいないわよ。
城に着いた時に国王であるダリウス・アルンゼンが出迎えてくれた。
三年前に会った時の印象は薄く、ただ銅色の艶やかな赤茶色の髪に黄玉の瞳だったという事は、ぼんやりとだが覚えていた。
今こうして顔を合わせて、とても穏やかで人の好さそうな容姿をしているな、というのが第一印象。
国王に対しての印象は悪くない。でも、彼の後ろに控えている宰相のアルフ・サットンは射貫く様な目で私を見ていた。
そして彼の後ろに控える使用人達・・・その中に混じって明らかに貴族の令嬢が一人。あれが恐らくカレンなのだろう。
あぁ・・報告書通りね。
あまりにその通りで、思わず笑みが零れる。
挨拶もそこそこに、国王のエスコートで部屋へと案内され、婚姻書にサインをした。
私の部屋は本来国王の隣、王妃の部屋になる予定だったのだが、こちらからの条件の中に、婚姻の公表は一年後。それまでは迎賓室を用意してもらう事としたのだ。
結婚の公表を一年後にした事はアルフも喜んだ事だろう。王妃の部屋ではなく迎賓室である事も。
そこら辺の理由は違えど利害が一致しているのだから、反対されるとは思ってはいない。
何かしらの理由を付けて、国王を言い含めるだろうと想像している。
ただ、国王が不満そうにしているのが分からないのだが。
嫌がらせはその日の夕食から始まった。
まずは国王と夕食を摂る予定が、サットン兄妹により邪魔された事から始まる。
いきなりカレンが倒れたのだ。恐らく仮病だ。
ダリウス陛下は彼女を周りにいた騎士に任せようとしたが、カレンが駄々をこねた為、私が付き添うよう薦めたのだ。
マジ、良い仕事してくれるわ。
そして部屋で摂る事にした夕食。
これが何と塩辛く、食べられたものではなかった。
驚きに思わず「何これ!」と声を上げてしまうくらい、不味かった。
まぁ、嫌がらせは想定内だったけど初日から、しかも食事からくるとは・・・
アルンゼン側からも侍女は付けられたけど、敵意丸出し。使えないわね。
でも私、やられっぱなしではないわよ。
食材を無駄にするのは許せない。なので、私に出された夕食は総侍女長に食べさせた。
食事メニューを任されていたのが総侍女長だったから。
「辛すぎない?こちらの味付けはこうなの?」と聞いただけなのに大袈裟に騒ぎ立てる彼女。
「まぁ、私共の国の料理は口に合わないと」だとか「シュルファ国ではどうだったかは知りませんが、贅沢は控えてください」とか言いながら、食事を下げようとしたから「お前が食べろ」と言ってやった。
「え?」
「だってこれがこの国の味付けなんでしょ?貴女が言うように私の口は贅沢な味に慣れているみたいなのよね。食材もムダに出来ないから、貴方が食べなさい。これは命令よ」
馬鹿にしようと嫌がらせしようと、私はシュルファ国の王女であり、この国の王妃になったのだ。
因みに、ここの使用人のトップは侍従長で、その下に総侍女長、その下に侍女頭。その下に侍女、更にその下にメイドがいるのだが・・・上層部は腐れてるわ・・・・
正に、この国の中枢みたい。
涙と鼻水を流しながら食事をする総侍女長を横目に、新たな食事を侍女頭に持ってこさせれば、これまた酷い食事だった。
透明なお湯に、生に近い野菜が浮かんでいる。
思わず遠い目になってしまうのは仕方がない。
これは料理人自ら嫌がらせしているのか、他に指示している人間がいるのか・・・
ミラを厨房に走らせ探らせた。そして指示していたのが料理を取りに行った侍女頭だと言うから、当然それを食べてもらったわ。
私はというと、ミラが直接厨房からもらってきた料理を頂いた。味付けは故郷とあまり変わらなかったので、とても美味しかったわ。
あれだけ辛いものと味の無いのが好きなら、これから彼女等の食事は特別に指示して用意してもらわなきゃね。
夕食の後、美味しい料理のお礼を告げに厨房を訪れたついでに、料理長には総侍女長と侍女頭への特別メニューを指示したわよ。
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