うちんと
侑李
第一章
なんやこの世界
平凡・・・と言うかは定かではないが、現在高校2年生の斎藤隼瀬は、家庭的で女子力が高く、いつも女の子に囲まれている以外は、怠惰な日常に辟易する一般的な普通?の少年である。そんな普通の少年である彼がある日、いつものように気だるげな朝を迎え、いつものように眠い目をこすりながら、いつものように自分の部屋から出て、いつものように階段を降り、これまたいつものように洗面所へ向かうと、彼の9つ上で何かと面倒見のよい姉、
「隼瀬!あんた、男ん子がなんちゅう格好しとっと(してるの)!」
暁美の注意に何を言っているんだと違和感を覚える隼瀬。一応自分の身なりを確認するものの、特に寝ぼけてスカートを履いているわけでもなく、暑くなってくる時期なので寝間着のTシャツがはだけて、若者らしく少し引き締まったお腹が見えているくらいのものだ。一般的に10代の健全な男子ならある種普通の事であるのだが、姉はそれがおかしいと言い放つので、隼瀬としては頭上に?マークがぽぽぽぽぽぽぽーんと浮かんでおり、余りにも浮かんできすぎたために、一部は床にボトボトと零れ落ちている。どこかのチョロインの攻略済みフラグのように、それはもうボトボトと。と、そんな?マークを床に散乱させる隼瀬がふと我に返り、姉のおかしな言動に反論する。
「なんちゅう格好て、そら姉ちゃんたい(でしょ)!」
「私?そらまだ着替えとらん(てない)けんしょんにゃあどね(しょうがないでしょ)」
「んねたい(そうじゃなくて)」
隼瀬が先程から姉を直視できずにいるのも無理はない。何しろ、寝間着代わりのTシャツからブラを着けてない胸がスケスケとなっており、そもそも下に至ってはパンツ一丁という有様だ。17歳という年頃の弟からすれば、実姉にそんな格好をされては恥ずかしいったらなかった。
「姉ちゃんもいくら家だけんてパンツ一丁は・・・・・・俺ももう高校生なんだけん」
あくまで自らの今までの常識でそう言う隼瀬だが、まさかこの世界が実は異世界、より正確に言えば平行世界などとは微塵も思っていない。それもそのはず、この世界は男女の立場が逆転している以外は、見た目的にほぼ一緒なのだから当たり前だ。ちなみに、一発で分かる違いといえばこの世界、隼瀬が元いた世界と鏡のようになっているのだが、いっぺんに全部ひっくり返ってしまえば逆に気づかないし、何より地理がアホほど苦手な隼瀬は当然気づかないのである。というわけで・・・・・・
「(俺?)なんね、いつもん事たい」
いつも姉ちゃんってそんなだったっけと隼瀬は思いつつ、歯磨きと洗顔を終えた姉弟は朝食を摂るため、食卓へ向かう。すると、そこでも隼瀬は驚愕の声を上げる。
「うええええええええええええええええええええ?!」
「なんね隼瀬、せからしか(うるさい)ね朝から」
「親父、エプロンなんか着て何しよーとや?!」
「こら!そぎゃん女の子んごた(みたいな)喋り方せん(しない)!お母さんは毎朝早いけん、いつもお父さんがあんた達の弁当と朝ごはんばしとっでしょうが」
なぜ父は説明口調なのだろうと疑問に思う隼瀬だが、そんなことより一番の疑問はやはり・・・・・・
「おや・・・お父さん、会社は?休み?」
「会社?何言いよっとねあんたは、お父さんはあ・・・暁美が生まれてからはずっと専業主夫たい」
「そ、そうだっけ・・・・・・(逆だろ・・・字が違うし)」
やはりというか、もう絶対何かおかしいと感じた隼瀬は、テーブルの上の新聞に目を通してみる。
「あんた、新聞なんて読む子だったか?」
暁美が、先程から普段と違う様子の弟を、何か学校で嫌なことでもあったのではないかと心配そうに見つめる。普段から暁美は隼瀬を猫可愛がりしすぎだと近所中で評判で、それはどこの世界でも変わらないようだ。表向きは年の離れた弟だからと口ではそう言うものの、その心中としては、隼瀬に対する姉弟愛を越えた何かが、隼瀬が成長するに連れ、一層増してきているのもあった。だが、隼瀬が近所に住む幼馴染の冬未に好意を寄せているのは明白。私は二人を見守るよきお姉ちゃんたらんと自らに言い聞かせ、密かに弟への届かぬ想いを胸の内に留めている。生まれた時からずっと一緒、一番近くで隼瀬を見ていた暁美だからこそ、その弟の違和感にすぐ何かを察したのかもしれない。
そして、その弟はというと、先程から無心で目を通していた新聞を閉じ、深呼吸してそっと呟く。
「なんやこの世界・・・」
元来、学校の成績も地理以外それなりで聡明なタイプである隼瀬。答えはもう見えていたものの、まさか現実にこんな事が・・・・・・といった意味合いの溜息をつく。そして、そんな非現実に目眩を覚えた隼瀬はその場に倒れ込み、暁美が慌てて隼瀬の体を支える。
「隼瀬!」
「姉ちゃん・・・大丈夫よ」
「ばってんあんた・・・もう今日は学校休みね(なさい)」
「大丈夫だけん」
「だめ。お部屋で寝とかんか」
父も、姉と同じ意見だ。
「お姉ちゃんの言う事聞いて、今日は休みね。心配せんだっちゃ(しなくても)、何かあったらお父さんもおるし」
「んねんね(いやいや)・・・ちっと考え事しよっただけだけん、大丈夫。制服に着替えてくる」
そう言って、2階の自分の部屋に上がる隼瀬の後を、暁美はやはり心配で追いかける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます