第3話
「デートの邪魔しちゃ悪いだろ」
「デートなんて」
「お邪魔虫は退散するよ。ぼくも早く恋人ほしいなあ」
「おまえさ、選り好みしなかったら、今頃、恋人できてるって気づいてないのか?」
「そうかな?」
「おまえほど女子の人気の高い奴、見たことないぜ?」
優哉は優しいし頭だっていい。運動も万能。剣の腕前も玄人でも倒すほど。
家柄だって悪くない。
つまり優哉はモテる。
ホラー的な噂はあるが、それが逆に女子連中には、モテる要因になったりするのだ。
優哉と一緒なら不良に絡まれても自分には害は及ばない。
護ってくれる。
そう解釈されるので。
そういう噂は優哉も知っていた。
だからこそ、簡単に女の子と付き合う気になれないのだ。
優哉は平凡が1番だと思っている。
なのに女の子たちは優哉の普通じゃない一面に惹かれている。
例えば人並み外れた頭脳だったり、運動神経だったり、特別扱いだったり。
優哉は生まれつき特別頭脳が優れているわけでも、運動神経がいいわけでもない。
すべて日頃の努力の賜物だ。
両親はたしかに進路についてはとやかく言わない。
できる飛び級もしたくないと言えばしなくていいと言ってくれる。
だが、教育面では厳しかった。
優哉はすべてにおいて1番でなければならないと、両親からは強制的に決定されている。
その期待に背かないように頑張った結果、現在の優等生のなんでもできる優哉がいるのだ。
なのにそういう努力を当たり前のものとして、影に隠れて努力する優哉には気づきもせずに、上辺だけで好かれても付き合う気になるわけがない。
ひとりになる時間が取れないほど女子に付きまとわれても、優哉が付き合う素振りをみせないのも、告白されても素っ気なく断るのも、すべて同じ理由だった。
本当の優哉を見てくれない人を好きになれるわけがないから。
しかし優哉が女子に人気があると、付き合うつもりならいつでも付き合えるとケントが指摘したとたん、ミリアが俯いた。
「?」
不思議そうに彼女を見ていたが、振り向く気配がなかったので、優哉はふたりに手を振った。
そのまま家路につこうとしたが、さっきの態度を後悔していたのか、ケントから声をかけられた。
「どうせ途中まで道は一緒なんだ。ユーヤも一緒に帰ろうぜ」
「お邪魔じゃないかな?」
「デートの邪魔しなけりゃ邪魔じゃない」
「だったら繁華街に行く途中までご一緒しようかな。繁華街まで出てしまうと家とは逆方向になるし」
ホッとしたように3人で歩き出したが、どういうわけかミリアはケントの隣ではなく、ごく自然に優哉の隣に並んだ。
小さい頃からの定位置だ。
しかしさすがにムッとしたのか、ケントが視線を寄越してくるので、優哉はそっと彼女に耳打ちした。
「ミリア」
「なに?」
振り向いた彼女が、全然気づいていないようだったので、呆れて指摘してやった。
「いるべき場所が違うって。ケントが気を悪くするよ。小さい頃からの癖だって、ケントはわからないだろうし。どうせ言ってないんだろう? ぼくらが幼なじみだって」
ミリアとケントを引き合わせたのは優哉である。
そのときにミリアを幼なじみとして紹介しようとすると、彼女の方から後輩だと言われてしまったのだ。
おかげでケントに自分たちが幼なじみであることを言えないままなのである。
そのせいだろうか。
ミリアが優哉に傾きがちなことを、ケントはあまりよく思っていない。
それで優哉との付き合いを絶つことはないが、時々ふざけたフリをして「ミリアのこと、どう思う?」と訊かれたりする程度には警戒されている。
そのことでいつも気を使っている優哉なのである。
「ごめんなさい。つい癖で」
「ぼくはいいけどケントの気持ちを、もうすこし考えてやってほしいな」
「はい」
そう答えるとき、ミリアは俯いていた。
そのままさりげなくケントの隣に行く。
憂い顔を浮かべているのが見えて、どうしてかな? と首を傾げた。
3人で学園の廊下を歩いていると、とても目立つ人物が歩いていた。
この国の第1王子ジェイクだ。
ジェイク殿下は現在、去年に崩御した国王の代理をしている身だが、学業も疎かにできないと学園にも通っている。
この学園は歴代の世継ぎが学んできた学園だとかで、殿下も飛び級で進学してきたらしい。
本来この学園の卒業は19だが、去年からろくに通えていない身で、18の今年、彼は飛び級で卒業することになっている。
普通ならよくて16、悪くても17で卒業できるという噂まであった。
しかし父親が病気になり代理をやるようになって、学業にまで手が回らなくなり飛び級を中断。
なんとか両立を続けていたが、去年に父親である国王が崩御した。
その関係で当初の予定より卒業が遅れ、今年卒業になってしまったのだ。
その卒業式にも出られるかどうか不明だという噂が流れ出している昨今だった。
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