第16話 武器屋にて

依頼を受けるのは2日間に一回で良いので俺は武器屋を見に来た。


月子から

『身を守る事を優先して』


『2人で金貨10枚なら理人くんの分だけなら金貨5枚でもいけるんじゃない?』


そう言われて追い出された。


月子はというと部屋が汚いから今日は一日頑張って掃除するそうだ。


まぁ、武器や防具は男ならワクワクするが女の子は興味が無いのかも知れない。


「いらっしゃい、何だこの間の奴か? 少しはお金は溜まったのか?」


「はい、金貨5枚どうにかですが」


「そうかい、なら金貨3枚位を武器、金貨1枚を防具、残り金貨1枚でその他の物を揃えると良い…まぁ値札がついているから、それを参考にな」


可笑しいな…なんで防具が安いんだ。


「防具は金貨1枚しかかけなくて良いんですか?」


「ああっ、金属製の物は高いが、安い物は革製だから安いんだ、最初はこんなもんだ、だが金属製の物になったら剣や槍より高いぞ」


成程、確かにRPGとかの初期装備は 服か皮の鎧だ…そういう事か。


「ありがとうございます、何か選ぶコツはありますか?」


「ああっ、最初は自分で選ぶと良い…可笑しかったら、その都度説明してやるさ」



そう言われたので店じゅう隈なく見た。


見た感じ中古も多くあるが掘り出し物は無さそうだ。


価格は同じ品質位の物なら似たり寄ったりだ。


「流石に掘り出し物はなさそうですね」


「そりゃぁ、俺の目利きがしっかりしているからな」


当たり前だな。


しっかり鑑定して商品として置いている。


目利きがしっかりしているなら掘り出し物なんて無い筈だ。


うん…なんだこれ?


無造作に樽に1本だけ突っ込まれている剣があった。


樽から取り出して、鞘から抜いてみると…美しい女性の姿が刀身に映し出された。


『綺麗だ』


チクりと心臓に痛みが走った。


思わず思ったら、刀身に映った長身の美女が驚いた顔でこちらを見ていた。


金髪のポニーテールの可愛らしくも美しい20代の美人。


女勇者に見える…しかも刀身に映し出されているだけじゃなく、柄にもまるで女神のごとく美しい女性をイメージした彫刻がされている。


「その剣…お前気持ち悪くないのか?」


なんでそんな事言うのか解らない。


見事な美しい女性が彫刻された柄に綺麗な女性を映し出す青黒い刀身…絶対にこれ高価な品だよな。


「凄く綺麗な剣ですね、美しい女性が柄に彫られていて、流石にこれは高いですよね、値札がついてませんが」


《そんな気味が悪い、呪われた剣が高い訳ないだろう》


「ああっ普通に大剣を買うなら金貨5枚以下はまずないが…そいつは特別だ」


「やはり…」



「なんだ、お前、その剣が欲しいのか?」


そりゃこんな素晴らしい剣欲しいに決まっている。


「欲しいですが予算オーバーですね」


あそこの大剣が金貨50枚(500万円)、この剣があれ以下の訳が無いから…絶対無理だ。


「その剣が欲しいのならやるよ…無料で良い…本当に欲しいんだな?」


「本当に良いんですか?」


これが無料…信じられないな。


「後で文句言うなよ、その剣の主人になると、捨てる事は出来ない…どんなに捨てても必ず持ち主の元に帰ってくる」


そんな加護か能力があるのか流石は異世界だな。


「凄いですね」


「そう、思うのか? あとその剣の持ち主は、皆不幸な死を遂げているんだ」


呪われている、そう言いたいのか?


美瑠子や月子は俺を驚かせようとしょっちゅう、その手の話をするが、その手の経験はない。


月子なんて『犬神憑きだから未来はない』なんて言っていたけど、原因は多分病気で、今はかなり元気になった。


「本当に無料なら貰っていきますよ…返せって言われてももう返しませんよ」


「ああっ構わない、今からその剣はお前の物だ…もう絶対に返品は効かないからな…」


「返品なんて絶対しないよ」


しかし、こんな剣もあるんだな。


刀身を除くとそこに、美人が見えるなんて。


昔、ダイヤモンドに豹の魂が宿ってるっていう映画見たけど…似た感じなのか…


宿っている…そうとしか思えない。


凄いな。



「サービスで手入れ用具もやるよ」


無料な上、こんな物までサービスなんて可笑しい。


まさか同情されたのか…


そうとしか考えられないな。


だが、この親切は素直に受けるべきだ。


「ありがとう」


俺はお礼を言い、武器屋を後にした。


◆武器屋SIDE◆


俺はとんでもない物を手にしてしまった。

まさか、かの有名な『呪いの魔剣 エルザ』だったとは思わなかった。


剣の買い付けをした時に、サービスでこれもくれると言うから貰ったが…やっかいな物を押し付けられた。


柄は銀細工が施された素晴らしい物だが…なぜか醜女が彫られている。


抜いてみたら…不気味に青黒く光る刀身には、不気味な女が見えてこちらをのぞき込んでくる…気持ち悪い。


しかも、この呪いの魔剣の質が悪いのは捨てても捨てても帰ってくる事だ。


不気味だから捨てたら翌日には店に並んでいた。


怖くなり湖に捨てても戻ってきた。


刀鍛冶に頼んで、焼いて潰して貰おうとしたら、刀鍛冶が腕に火傷して二度と剣を打てなくなった。


詳しく調べたら


この剣は『呪いの魔剣 エルザ』だった。『持つと不幸になり、死ぬまで離れない』そういう噂で有名だから誰も欲しがらない。


その剣を貰ってくれる少年が現れた。


流石に良心が咎め、お金を貰う事は出来なかった。


『すまないな…擦り付けて』


心で謝りながらも押し付けることが出来て俺はホッとした。


◆◆剣に宿るエルザ◆◆


私の名は…エルザ…元は剣聖だったわ。


鍛え抜かれた体に俊敏な動き、歴代の剣聖でも最強と呼ばれていたのよ。


だけど、浮いた話は…恥ずかしながら無かったわ。


剣一筋に生きる為に山に籠りひたすら修行をしていたからね。


来る日も来る日も剣を振るい己を鍛え上げていたの。


そんなある日…勇者が私の前に現れた…名前は記憶にない。


『人でなくなってから記憶が虫食いになったの』


勇者の他に聖女と賢者が加わって魔王討伐の旅にでました。


私は女扱いされず、勇者は聖女と賢者(女)といつもいちゃついていたわ。


まぁ男にすら見えかねない私じゃそうなるのも…仕方が無い。


だが…それだけじゃ無かった。


命からがら魔王を倒した時の事です…


「ハァハァゼイゼイ…どうにかなったね」


「死ね…」


「何をするんですか!」


「お前は邪魔だ死んでもらう」


そういうと勇者と聖女と賢者が襲い掛かってきた。


今思えば…何となくだけど、魔王との戦いで、全力で戦ってない気がした。


しかも、戦いが終わった後に、何故か自分達だけポーションを使っていました。


はかられた…だけどなんでこんな事に。


「なぜ、私が殺されなくてはいけないのですか? 恨みを買った覚えはないのですが」


「煩い! 勇者である俺は、この後、三人を妻に娶らなくてはならない…だが、俺はお前みたいな不細工を娶りたくないんだ、悪いな!」


「本当に冗談よね、全員との間に子を作れなんて」


「私も、貴方みたいな不細工とは暮らしたくないわ」


賢者が極大呪文を放ち…聖女が後ろに下がり、勇者が斬りこんでくる。


本当に殺す気なのは明らかだ。


「抵抗させて頂く」


私は懸命に戦ったが…三対一、しかも私は疲労している、勝ち目はなかった。


最後には聖剣を突き刺され…私は死んでいった。


「この無念は忘れないー――っ呪ってやる、呪ってやるー――っ」


そんな私を三人は高笑いしながら見ていたわ。




気が付くと私は何処か知らない場所にいました。


それが聖剣の中だと気が付くのに数日掛かったわ。


何でこんな事になったのかは解らない。


だが、剣の中から外の世界が覗けた。


私が見た物は…仲良く暮らしている三人の姿だった。


『殺してやる』


何時も思っていた。


『殺してやる』


気が付くと私は、私を持った者を操ったり、呪える様に変わっていましたわ。


その力で、勇者の体を乗っ取り…聖女と賢者を王族の前で斬り殺した。


「勇者…が乱心した」


大騒ぎが起きる中…そのまま勇者を操り自殺させて終わり。


これですべてが終わった。


そう思っていたが違っていました。


私の怨念はそのまま聖剣だった物に宿り続けて消えなかったわ。


勇者を呪う気持ちはやがては『人』を恨む怨念に代わり…聖剣は禍々しい姿へ変わっていきました。


そして私が宿った聖剣は持つ者を不幸にする『呪いの魔剣 エルザ』と呼ばれる様になりました。


今なお、私の怨念は…消えない、世の中の人が憎くて仕方が無い。


次々と持ち主を呪い、敵味方構わず不幸に陥れる。


そんな事が続けていたある日、私は前の持ち主を憑りつき殺した後、武器屋に売られていました。


この武器屋…私を捨てたり、壊そうとしていたのですが、『持ち主』じゃないので祟り殺せないのが残念でした。


破棄したり捨てる事ができないのが解ると、私は樽の中に入れられて放置されていました。


幾ら呪いの剣でも自分では動けません。


所有者が居なければ何も出来ません。


次に憑ける日を静かに待っていたのですが…


久々に私を手に取る人間が現れました


何故だか持たれた瞬間に私の方が恐怖を感じました。


魔王等比べ物にならない…魔神、邪神でら生易しい位の気が伝わってきます。


そんな中で私を手に取った少年と目が合いました。


凄く綺麗な少年で、黒毛、黒目の色白な美少年。


その美しさは勇者より美しく、聖女よりも色白な美しい肌すら持っています。


『祟ってやる』『憑いてやる』そう私が思った時に…


『綺麗だ』


そういう思いが聞こえてきましたわ…


嘘でしょう…只でさえ醜いと言われ、更に怨みや怨念で心まで捕らわれた私が『綺麗?』


私の分身の様に柄に浮かび上がっている醜い顔すら『美しい』?


他の人間なら見た瞬間放り出す…そんな刀身から見える私の姿、それを愛おしそうに見ています。


どうして良いか解りません。


そんな私に恐ろしい声が聞こえてきます。


『理人に手を出したら殺す』


恐怖と嬉しさのなか、私は素直になる事にしました。


怖いから祟らない、嬉しいから助ける…それで良い筈です。


それで良い筈ですよね。


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