英雄様をお招きしたら、魔王様が増えちゃいました。

No.25 イビルハンガー最後の抵抗？！

イビルハンガーとの戦闘の末、アギ―はコアを奪った。

「よくやった！アギ―ッ！！！」

そう言って現れたのはテネバイサスとシャドウダイバー。

彼らの後についてあるものも現れた。

イビルハンガーは口を開けて啞然とする。

「な、なんだとおおぉッ！？」

「KUOOOOOO!!!!」

その場に現れたのはテネバイサスだけではなかった。彼の後ろには深淵の破壊者が。

最初はテネバイサスを襲う為に来たかと思われたがどうも様子が違う。

「おい！何をしている！そいつをさっさと殺せ！」

「無駄だ、貴様の声は届かない」

テネバイサスが剣の切っ先をイビルハンガーに向ける。

「ッ！！？貴様！その剣は！その盾は！！」

「これがコイツを操るタネか、こんな感じか？」

剣が紫の光を放つ。

すると破壊者が足を伸ばして、イビルハンガーを捕まえる。

「な、何をする！？貴様の主人は俺だぞ！！！逆らうなんざ！！ッ！ガアアアアアッ！！！」

全身を締め上げられるイビルハンガー、バキボキと骨が折れる音が響く。

深淵の破壊者は口を大きく開ける。

「お、おい！やめろ！貴様のような汚らしい奴に食われるなんて！ふざけるなよ！こんなことがあっていいはずがない！！おいマドボラ！！俺を助けろ！お前の自信作だろ！？チクショウ！！テメェの話に乗ったせいで！！」

破壊者の口まで運ばれるイビルハンガー。

しかし、彼は身体を変形させ、握られていない部分から手を伸ばす。

狙いは兵士達だ。

「テメェらを喰って力をつければ！これぐらい！」

「しまった！」

「皆さん逃げて！」

しかし、伸びる腕が兵士達の寸前で止まる。

「え？な、なんだ腕が伸ばせねぇ？！」

伸ばした腕から獅子の獣人が現れ、伸びる腕を摑んでいた。

「ああ！貴方様は！！」

兵士達が驚きながらも膝をつく。

「我らが王よ……！」

涙をこぼしながら兵士達は頭を垂れる。

「皆の者よ、立派であった。余は誠に家臣に恵まれたものよ」

厳か、しかし優しい声で獣人の王がそう言った。

「この方が……！？」

アギーが啞然としていると獅子の獣人が彼女の方に顔を向けた。

「貴方様がそうか。貴方様のお陰でこのように最後の機会を得られた、心より感謝申し上げる」

獅子の獣人はアギ―に頭を下げた。

「そんな最後だなんて！！」

兵士たちが泣きながらそう言う。

「何を悲しむ事がある、皆は新しき善き主に出会えた、余は嬉しいぞ。これで心置きなく逝けるというものだ」

そう言って獅子の獣人はイビルハンガーの腕を引き戻し、彼の身体へと戻って行く。

「クソぉ！！もう、食う価値もないゴミの分際でしゃばりやがって！！俺に食われたくせに邪魔しやがって！！」

イビルハンガーは泣きわめくように怒鳴った。

だがそんな彼の声などに耳を貸すものはいるわけもない。

「い、嫌だぁぁぁぁ！！！！」

破壊者は自身の足ごとイビルハンガーを一口で食べてしまう。

「今だ！アギー！」

それをみたテネバイサスがアギーに合図する。

「はい！」

アギーは地面に手を置く、彼女の足元から破壊者の周囲をグルっと囲むように植物が生えていく。

植物は何か文字や模様を描いていった。

「それでは破壊者さんを元の世界へ！」

植物達が光ると召喚陣が発生。

「SAAAA！！！」

破壊者は光とともに跡形もなく姿を消す、こうして彼のものは元いた世界に送り返された。

「ふぅ……なんとか」

闘いが終わった、そう思った時アギ―の背後から拍手の音が。

「面白い！面白いぞ！」

アギ―は声の方を振り向く。

確かさっきまでそこに人なんていなかったはずだが。

「えっ！オバケさんですか！？」

アギ―の後ろにいたのは青白い男だった。

ここでいう青白いは肌が異常に白いという訳ではない、全体的に半透明なのだ。

「ひっひっひっひ、そんなものではない。俺はちゃんと生きている。今こうやって見えているのは俺の能力で作った映像だ。うーん、だが距離があるとどうしても映像精度の劣化が著しい。まだまだ改良の余地ありだな」

そう言って半透明の男は空中に光る板のようなものを出現させ、なにか手を動かしながらブツブツとつぶやいている。

「あなたは？」

「マドボラ、それが俺の名前だ。お前は確かアギーだったか？まさか召喚された破壊者を送り返すなんてな。そうか、召喚術士だったのか」

マドボラが話していると彼に向かって空から炎の弾が降ってきた。

当然、ただの映像である彼に炎は通用しない。

「ほお、これが蘇った魔王達か」

特に気にする様子もなくマドボラは空を見上げる。

そこには4人の魔王が立っていた。

「なーんだ、顔色一つ変えねぇでやんの。つまんな」

フラマーラがそう言って降りて来る。

「貴様がマドボラとやらか。どうしたのだ？残るは自分だけと知り命乞いでもしに来たか？」

後に続いてグレイシモンド達もアギ―の隣に降りる。

「まさか、裏切り者の2人に試作品が一つ壊されただけだ。命乞いをする理由がない。ただ良いデータが取れたからな、その礼にでもと思ってな」

「試作品、そう言えば奴は貴様の自信作だと自賛していたが」

テネバイサスがマドボラに話しかける、彼は武器を構え警戒したままだ。

「そうだ、アイツは俺が作ったんだ。幾つもの生物を組み合わせて作った存在、キメラって奴だ」

マドボラはテネバイサスを興味深そうに見つめる。

「ふぅん。お前も興味深いな、うん、他の魔王よりも中々興味深い。イビルハンガーは元々は出来損ないの獣人でな、まあ出来損ないだからこそ実験に丁度良かったんだがな。アイツには色々な獣人を組み込んでやったよ」

足元に転がっている袋に気が付きしゃがみ込むマドボラ。

「この粉、最近やつの悪食はすごかっただろう？これは魔力を摂取した際の吸収効率を上げるものでな。いささか効きすぎたようだ」

マドボラは立ち上がりアギ―の方をみる。

「だが助かった、アイツがこの世界の食料全てに手を出す前に処理してくれて。この国の住民すらも食い尽くす勢いだったからな、ぼちぼちどうにかしようと思っていた所だったんだ。おまけに良いデータも沢山取れた、感謝してもしきれないな」

「そんなら感謝の印にテメェのコア献上しやがれ」

フラマーラがイライラした様子で話しかける。

「それはできない相談だ。どうせお前らは俺の国に来るのだろう？なら良いじゃないか、いつも通り力づくで奪えばいい。野蛮なお前ららしいやり方でな、ひっひっひ。

薄気味悪い笑いをするマドボラ。

「さて、話しすぎたな。さっそく歓迎するための準備をしなければ。じゃあな4人の魔王と召喚士の娘」

ふっと光が消えてマドボラの姿も消えてしまった。

「イビルハンガーも気に食わん奴だったが、今度のも大概だな」

「まだ相手にはなにか策でもあるのかしら、早く私の魔力取り返さないとね」

テネバイサスとアウレンデントはそう言った。

「と、とにかく！すべてが終わりましたね！みなさん大丈夫ですか？」

アギーが兵士たちに振り向く。

「はい！傷薬を今作って貰いますから、皆さん並んで下さいね！」

せっかく圧政をしいていた統治者を倒したのだ、少しでも明るい空気にしようとアギーは手をパンっと叩いてそう言った。

「そうだな、色々考えるのは今は一旦休もう、せっかくアイツの支配が終わったんだ！まずは祝おうぜ！」

蛇の獣人がそう言って他の兵士たちを元気づける。

「う、うおおおおッ！！！」

すると緊張の糸がほどけたのだろうか、兵士達が大声を上げる。

歓喜の声だ、中には泣き崩れるものもいた。

兵士たちはアギ―の前に並ぶ。

植物がアギ―の隣で花を咲かせ、その花の中心には塗り薬のようなものが。

それを指で救って兵士たちの傷に塗って行くアギ―。

「す、すげぇ！！もう傷がなくなちまった！ほら！」

「魔王様達にボコボコにされた傷がこの通り！キレイさっぱりピッカピカだぜ！」

兵士たちは飛び跳ねて回復したのをアピールした。

「あははは、そう言えば皆さんの傷の殆どは魔王様達が原因でしたね」

アギ―は街へと向かった。