ケモ耳ロリっ娘に死ぬまで愛されたい。

ケモ耳ロリっ娘に死ぬまで愛されたい。


これは僕が週に一度投稿している漫画の題名。HNはサク。本名は朔春。なんの変哲の無いただの一般人。

そして────


『サクっ!』


ぴょこんと机の下から姿を見せるのは、人間は本来持ち合わせてない毛深く長い耳。同時に影から焦茶色の毛玉がゆらゆらと振れている。四畳半に詰められた秘密が彼女だ。


曰くこの少女は周辺の土地の神様らしい。

狭いオンボロアパートに閉じ込めているのは些か罪悪感があるが、これは彼女が自ら申し出てきた。もしも他の人間に見られてしまえば面倒なことになると、一人暮らししている僕の家までなだれ込んできたのだ。

だが本当に神様なのだろうか。タンスに小指をぶつけてわんわん泣き叫んだり、油揚げよりも頂き物のシュークリームに目を輝かせて頬張る姿はまるで人間と変わらない。


(押しかけ女房ならぬ押しかけ狐……か。)


『また我を題材にした御伽噺を描いておったのか?』


膝に乗り上げる栗色の頭を撫でれば、ピコピコと感情と共鳴するように耳が喜ばしく震えている。

正直悪い気分ではない。趣味で描いている漫画のネタにもなるし、何より夢に見た美少女との同居生活だ。全人類が憧れる日々だろう。

しかしこの幸福な生活も僅かといったところか。僕は今の生活を手放し、彼女と離れなければならない。

残り数日もすれば僕はこの漫画を携えて東京へ向かう。なんと作品を閲覧していた編集者が連載へとこじつけてくれたのだ。

残るは居場所がこのワンルームだけの彼女に説明をしなければ。息を呑んで、僕は口を開く。


『……え?……ずっと一緒じゃないのか?ずっと、ずっとこの地に居てくれないのか?』


意を決しこの事を伝えれば、今にも泣き出しそうな表情が良心に突き刺してくる。これ程後ろめたい気持ちになることは生涯訪れないだろう。

潤んだ大きな瞳はルビーのようだ。見た目は子供とはいえ、少しドキッとしてしまって。気持ちが揺らいでしまう。


『嫌じゃあ!!サクは、サクだけはっ……生涯共に過ごしてくれると……思っとったのにっ……。』


─────その瞬間。僕の中で守っていた何かが崩れ落ちた。

絶対に帰ってくる決意を心に秘めて。強く彼女を抱き締めて。

きっと、きっとまた会える、必ず帰ってくる。そう誓って。僕は神の唇を奪ってしまった。


─────────

──────


何とか泣きじゃくるかみさまを宥めて。深夜。僕がいつものように床に就き目を閉じた頃。


『────……サクぅ。最後に……もう一度、抱きしめてくれんか?』


暗闇の奥から少女の声が聞こえる。泣き喚いた後だからか、鼻が詰まったのか。声は低音で少しくぐもっている。

しかしいつもならば夜になるとふすまの奥に隠れて絶対に姿を見せないというのに、今夜は様子がおかしい。

眠気を我慢して声の元へ向かう。足元をスマホのライトで照らし足を踏み出せば、ギシギシと古びた床板が鳴り響いた。

寝惚けていた。警戒心が薄れていたと思う。今にして思えば、なんと無警戒で愚かだっただろうか。そのライトを彼女に向ければ。すぐに引き返すべきだと気づけたのに。


『ほれ。もう少しちこう寄れ。もう少し。そう、こっちじゃ、こっち……。』


『来たな。』


言われるがままに近づけば─────声のトーンが更に落ちる。

瞬間、強く手を引かれた。それは子供の腕力とは思えないくらいに。つよく、つよく。

全身を締め付けて、温もりなど感じない、何かが縛り上げて。これが……男を抱きしめる少女の力か?


「いっ……なにっするの……!やめて、離してよ……!」


『何を言っておるのじゃ。共に暮らし、同じ釜の飯を食し、接吻し、そして身を寄せ同化し合うことを“アイ”と呼ぶのじゃろう?全部、全部全部!サクが教えてくれたことじゃ!』


昼間は輝かしい宝石に見えたソレは。正しく獣の瞳だ。獲物を狩る目つき。


『我は条件を果たした!ならばサクと愛することだって、出来るはずじゃ!』


細まる赤。ギラつく犬歯。舌を舐めずる音が四方から聴こえる。

数多の視線が全身に刺さっているような。何処からともなく臭う血腥さが。

身の毛がよだつような恐怖が身体の奥底から嘔吐いてくる。


────喰われる。本能がそう訴えていた。


「ま、……待って、待ってよ。ねえ?違うよ。こんなの、愛なんかじゃ……っ。」


誤算だった。まさかあのちいさな少女にここまでの力があるなんて。

いや、もはやコレは少女なのか?今、僕を覆い包んでいるのは、なんだ?

その時、手元から離れ落ちた端末の照明が、下から僕と“彼女”を照らす。そう、照らしていたのは、あの小さくて、可愛くて、愛していた彼女だった。筈だったのに。


「あ」


『────諢帙@縺ヲ繧区?縺励※繧区?縺励※繧区?縺励※繧区?縺励※繧区?縺励※繧区?縺励※繧区?縺励※繧区?縺励※繧』


それは幾千幾万の目玉と贓物で構成されていた。

それは生きていた。それは蠢いていた。

それは確かに存在していた。

違う。コイツは。“これ”は。女の子でも。人間でもなかった。

これの求愛に応えてはならなかった。始めからこの類に常識が通じる訳が無かったんだ。

いつから“こう”見えていた?いつから無害だと。自分と同じだと認識していた!?


「────あ、あ、あ、あああ?」


それを見てしまえば、もう。

恐怖で体が動かない。瞼が閉じれない。逃げられない。逃げれるわけがない。だって、だって。足先から。感覚がなくなっている。冷たい。冷たい。冷たい。視界に映るのは、極彩色の赤。

ちが う 侵食されている 喰われて いる あたまのなか に はいりこんで いる


愛さ れ てい る

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