第45話 王女殿下の屋敷で王太子殿下にお会いして殿下の想い人が私であるという事実は墓場まで持って行こうと決めました

コンスタンス侯爵令嬢が王太子殿下とのデートをばらしてくれてからが大変だった。

なんでも、悪役令嬢グループの男爵令嬢が私と殿下を見ていたそうで、変装している殿下をあっさり見破ったのだとか。まあ、髪色と瞳の色が違っただけで、知っている人がよく見れば判ったのだろう。


王太子殿下を狙っている高位貴族連中はもとよりその取り巻き等々が次々に嫌味攻撃をしてきた。

更にコンスタンスに対する態度でブス眼鏡は傲慢になったと噂されてもう大変だった。

他学年の連中も私を次々に見学に来る始末で、トイレにすら一人でおちおち行けないような状況に陥っていた。


「どうしよう、マリアン」

私が困って聞くと

「いっそのことくっついてしまえば」

と煽る始末で、どうしようもなかった。


週末がやっと来てこれほど嬉しかったことは無かった。


「また殿下とどっかに行くのか?」

「いや、だからあれはお情けで連れて行っていただいただけで、なんでも無いからって言っているでしょ」

私がピーターにしゃかりきになって言うと


「そんなのはとっくに判っているわよ」

「でも、それでも良いじゃない。皆に自慢できるし」

ローズとクラリッサがさらりと言ってくれる。

自慢とかそんなのしなくていいから私の日常を返して欲しい。

私はいささかうんざりしていた。


だって学食のおかわりはしにくくなったし、よそってくれる食事量も減ってきたのだ。


そんなこんなでマリアンの馬車に乗れてほっとしたのだった。


「どう? エレ、覚悟はついた」

屋敷に着くと食事時にマリアンが聞いてきた。


「覚悟ってなんのよ」

「そんなの王太子妃になる覚悟に決まっているでしょ」

私の問にマリアンが答えてくれた。


「そんなの無理に決まっているでしょ」

「そんな事ないと思うけれど」

「絶対に私を王太子殿下は美化していらっしゃるんだって」

私が言い切った。


「私が何を美化しているって」

私はその声に固まってしまった。

部屋の中に王太子殿下が入ってきていらっしゃったのだ。


「あら、お兄様。今日はどうされたの?」

「はんっ、お前が逃げないかどうか見に来たんだ」

「明日でしょ、判っているわよ。エレを連れてレイモンド様のところにいるから迎えに来てよ」

「自分で来い・・・・いや、やはり迎えに行く。いつ逃げられるか判ったもんではないからな。それにお前、俺とワイルター嬢の噂に尾ひれ付けて流しているだろ」

王太子殿下はマリアンを睨まれていた。


「私じゃないわよ。コンスタンスとかでしょ。しゃかりきになって潰すのに必死よ」

マリアンは笑って言った。


「何言っているんだよ。俺とワイルダー嬢はもともと何もないだろう。お前が彼女を連れて行かないと、食事会に来ないって言うから」

その言葉にさすがの私もグサグサ来る。いくら無理だと判っていても、ご本人から言われると。


「お兄様最低! エレはお兄様命なのに。本人の前でそんな事言うなんて悪魔よ」

「いや、ごめんワイルダー嬢、そう言うつもりでは」

王太子殿下はマリアンに言われて慌てて私に謝ってきた。


「じゃあどういうつもりなのよ」

「いや、だから何回も言っているだろう。ワイルダー嬢にもこの前に話したように、俺は10年前に魔王の攻撃から助けてくれた女の子の事を探しているんだ。オレの心はその子に捧げているって」

「その子、そんなに美人だったの?」

マリアン止めて、そんな事聞くのは。

私は思わずそう叫びそうになった。


「うーん、美人というよりは神々しかったかな」

ほら、絶対に美化しているって、私が神々しいはずないもの。


「なんか、とても美化しているんじゃないの?」

マリアンの言葉に私も思わず頷いてしまった。


「そらあ、多少はそう言う所があるかもしれないけれど、そこまで美化していなぞ。何しろその子はヒールと浄化の違いも判らない子だったんだから」

その不審な動きをする私を不思議そうに見ながら殿下はおっしゃられた。いやもう止めて。その黒歴史言うのは。

私もたった7歳だったんです。それっくらいのミスは許してほしい・・・・・

私は真っ赤になっていた。


「その子、本当に抜けているわよね。エレみたいに」

止めてマリアン。私に振るのは。私は首を必死に振った。


「そうか?、ワイルダー嬢は抜けてはいないと思うが」

「いつもは心の声をダダ漏れさせているんだからどう考えても抜けているでしょ」

マリアンが言い切った。


「まあ、それは多少はそうかも知れないけど」

殿下はそう言ってマリアンを見られた。


やっぱり私だとは全然気付いておられない。絶対に昔の私を美化していらっしゃるんだ。

私はよく判った。

それと少し悲しくなった。


殿下をお助けしたことは墓場まで持って行こうと、私はこの時に決心したのだ。

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