第31話 祖母の夢を見ました

私は夢を見ていた。昔のことを。


いつも元気な祖母がその日は珍しく、布団から起き出してこなかったのだ。


「どうしたの?、おばあちゃん」

「ああ、エレかい。少ししんどくて」

「えええ!、また、誰か変な人来るの?」

そう、時たま、祖母は嫌な人が来ると判っている時に、仮病を使うのだ。

この時もそうだと思ったのだ。


でも、後で考えたらそう言う時は、やれ背中が痛いだの腰が痛いだの大騒ぎするのに、この時はやたら静かだった。


「いや、そんなことはないんだけど。悪いが今日は診療所は休診にしておいてくれるかい」

「判った」

私はそう言うと、お粥を作りに下に降りた。


お粥を作って持ってきた時も祖母は喜んで食べてくれた。


変だと気づけば良かったのだ。考えるに、いつもはこんな水っぽいご飯が食べられるかだの、味付けが薄すぎるのだの、文句を散々言う祖母が、珍しく静かに食べていたのだ。


おかしすぎだろう。


でも、その時はあんまり考えなかった。


「エレ。来年だけどね。お前の学力なら、うまく行けば王立学園に受かると思うんだ」

「えええ!、あの貴族の行くっていう学園」

「そうさ、魔術とか色々教えてもらえるはずだから」

「でも平民の私が言っても大丈夫なの?」

「中には平民もいるよ。そして、もう少し魔術を磨きな。あんたの身を守るためにはその方が良いから」

「そうかな」

「それと王宮に私の知り合いがいるから、何かあったら頼るんだよ」

「王宮に?」

「そう、その眼鏡を作ってくれた奴がいるから。そいつならお前のことを考えてくれるはずだ」

「えっ、何言っているのよ。おばあちゃん。今際の遺言みたいに。単なる風邪でしょ」

私は笑って言った。


「いや、気付いた時に言っとかないと忘れるからね」

祖母も笑って言った。


「それとエレ、お前のヒールは寿命の尽きそうな人には絶対に使ってはいけないよ。それは天の摂理に反するからね」

「えっ、何言ってんのよ。そんなの使ってもどうなるもんでも無いじゃない」

「そう、お前の力はそんな無駄なものに使っちゃ駄目だからね。例えば私みたいな老人に使っちゃ駄目だよ。寿命の改変は天に逆らうことだからね。それだけは約束しておくれ」

「えええ、なんかえらく真面目な話だね」

「まあ、話せる時に話しておこうと思って。まだまだ長生きするつもりだけれど、気付いた時にいっとかないとね」

そう、この時に祖母と約束させられたのだ。


そして、祖母と話したのはそれが最後だった。


夕方も祖母はすやすやと寝ていたので、そのままにしておいたのだ。


翌朝祖母は冷たくなっていたのだ。


そう、私は信じられなかった。あの元気が取り柄の祖母がいきなり死ぬなんて。


祖母のことだから絶対にこうなることが判っていてあの話をしたのだ。


私は祖母との約束がなければ絶対に渾身の力を使ってヒールをかけたはずだった。


私は祖母と約束したことを本当に後悔したのだ。


してなかったらこのときに絶対に使っていた。


祖母がいなくなって本当に私はどうしたら良いか判らなかった。


物心ついた時には母はいず、父もスタンピードで死んで、私を引き取ってくれた祖母まで死んだのだ。私は天涯孤独の孤児になってしまったのだ。


その呆然とした時に男たちに踏み込まれたのだ。


祖母の死でショックを受けていた私は何も出来なかった。


そして、もうどうなっても良かったのだ。


その時に王太子殿下に助けてもらわなかったら、本当に落ちるところまで落ちていたと思う。


そう言う意味で、王太子殿下は本当に私の恩人だった。


王太子殿下は私の事は一顧だにしておられないと思うが、私はその時に頑張って生きていこうと思ったのだった。

そう言う意味でも王太子殿下は私の恩人だった。


私はその時のことを思い出していた。


そして、もう少しちゃんと生きていこうと思った。父さんや母さん、そしておばあちゃんのためにも。

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