第28話 食堂で王太子殿下に声かけられました

授業の後のお昼休み、食堂は相変わらず混んでいた。

先に授業の終わっていたローズらが場所を取ってくれていた。今、食事は大体殆どクラス全員で取っていた。私達は食堂の端に陣取って食べていた。1年だからじゃまにならないように。


伯爵様以上は貴族専用食堂で食べる場合が多いが、子爵以下はここで食べる。子爵様も男爵様も本来お貴族様なのだが、男爵様以上だと庶民食堂ががらがらになってしまって貴族食堂が大混雑になり、その高級感が維持できないからではないかと私なりに考えたのだが。

この学園のいびつな人口構成が影響しているのだ。何しろ人口の0.1%以下しかいない男爵以上のお貴族様が8割を占めているのだから。まあ、学力面において王国最高学問府がここ。卒業生は研究職につくか文官になるかたまに騎士団に入るかのどれかだ。


王宮に就職すれば、子爵令息だろうが平民だろうがそんなに立場は変わらないはずだ、と希望的観測をしているんだけど。怖くて本当のことは聞けない。


マリアンあたりにはそんな訳無いでしょって言われそうだけど。


ま、私は王女様の使い走りだから関係ないかもしれない。




ここの学生はそんな職種を目指すか親の領地を継ぐか、そうか永久就職、すなわち結婚をするかなのだ。


それで女どもの凄まじい戦いが起こっているのだが・・・・


その永久就職戦争において最高峰が私の王太子殿下なのだ。


そして、モモンガさんが必死に王太子殿下にアタックしているのがそれだ。

それに対する大貴族様の反撃がその最たるものだ。


そして、今も王太子殿下を見つけたモモンガさんが王太子殿下に必死にアタックしていた。

もう他所でやってよね。


と私は思ってしまうのだが。


「エレ、あんた、レイモンド様に魔術見てもらったんだって」

ローズが声かけてきた。

「聞いた聞いた。大魔術師様が見てくれるなんて10年ぶりだそうよ」

クラリッサも言ってくれた。


「えっ、そうなんだ」

私は驚いて言った。まあ、週末にマリアンとお会いしているから私にとっては珍しくもないんだけど、教えてもらうだけで凄いんだ!


「でも、魔術がまた暴走してカバ先生を直撃して水浸しにしたんだって」

ローズが言う。


「えっ、あれは暴走じゃないわよ」

「じゃあ、日頃の恨み込めてわざとやったってこと?」

「違うわよ。レイモンド様がカバ先生が女生徒とイチャイチャしていたのみて、面白くないから攻撃させたんだって」

ローズに私が必死に言い訳した。


「えええ!、そうなの。レイモンド様が怒ることなんてあるんだ」

「だってその後も、必死に狙わせようとするんだもの。レイモンド様はそれで良いかもしれないけど、私は成績に直結しているんだから、それからはわざと外すようにしたわよ。私が落第するわけにはいかないから」

「そらあそうよね」

「でも、そうしたらレイモンド様が怒り出してもっとちゃんと狙えって、落第してこの学校にいられなくなったらレイモンド様が使ってやるからっておっしゃったけど、魔術師塔の下働きって碌な事なさそうじゃない」

「えええ!、お前、レイモンド様にスカウトされたのか」

その言葉にピーターが食いついた。


「えっ、何言ってんのよ。魔術師塔の下働きよ。あんなゴミゴミとした汚い塔なんかで働きたくないわよ」

私が当然のごとく言うと


「お前、何言っているんだよ。魔術師塔で働くって、宮廷魔術師になるってことじゃないか。年に1人出るかどうかなんだぞ」

身を乗り出してピーターが言ってくれた。


「それも、レイモンド様の下って、下手したらそれレイモンド様の弟子になれるってことじゃない。ここ10年間レイモンド様は直接の弟子をとっていないと思うけど」

ローズまでもが言う。


「えっ、そんな凄いことなの? でもせっかく、このあこがれの学園に入れたのだから最後までちゃんと卒業したいわよ」

「お前何言ってんだよ。そんなのレイモンド様の弟子のほうが良いに決まってんだろう。学園の卒業生なんて毎年百人以上いるけれど、レイモンド様の弟子って10年に1人だぞ」

「そうよ、もう出世確実じゃない」

「結婚するにしても貴族からオファーが殺到するんじゃないか」

「えっ、結婚は別に興味ないし。私、助けてもらった時から王太子殿下命だし、それ以外は別に興味はないわよ」

私が言い切ると


「あんたそれは高望みしすぎよ」

「その姿形で王太子殿下はないわ」

ローズとクラリッサが好きに言ってくれる。


「別に良いじゃない。希望するのはただなんだから」

私が言うと

「でも、王太子殿下は高望みしすぎじゃない」

「誰が高望みしすぎだって」

「で、殿下」

そ、そう、そこにはいつの間にか王太子殿下が立っていらっしゃった。


私はそれを見て食べていたものを吹き出しそうになった。


「いいえ、何でもないです」

ローズらは真っ青になって言っていた。


「そうか、何か私の話をしていたような気がしたが」


他のものは私も含めて固まっていた。


「殿下、庶民の噂話ですわ。殿下があまりお気になさるようなことではございません」

仕方無しにマリアンがフォローしてくれた。


そうよ、王族同士で話して欲しい。こちら振らないで。緊張で心臓破裂しそうだから。そう思ったら殿下がこちらを見られた。


えっ! マジ!


「ワイルダー嬢。レイモンド爺に気に入られたんだって」

王太子殿下が話しかけてくださった。嘘ーーー

何度話しかけられても胸がどきどきして話せない。


私は真っ赤になって頷いた。


「おい、あのサラマンダー見てもびくともしなかったエレが、恥ずかしがっているぞ」

珍しいものを見るように呟いたつもりのピーターの大声が周りに響き渡った。


余計なこと言うんじゃない! それも何故、魔物のサラマンダーと麗しの王太子殿下を比べるのよ!


「君がサラマンダーを斬り殺したピーター君か」

殿下が声の方を向いておっしゃった。


「は、はい」

思わずピーターも飛上って直立不動になった。ピーターもまさか王太子殿下に声をかけられるなんて、それも顔と名前を覚えてもらっているなんて思いもしなかったのだ。


「で、殿下に覚えて頂いて光栄です」

こいつもいつもと態度違うよな! 私は白い目でピーターを睨みつけてやった。


「うん、妹から聞いたのだ」

「妹?、王女殿下ですか」

ピーターが驚いて聞いた。そうあんまり王女のことは知られていないし、そもそもマリアンが王女だとは秘密なのでは。


「そう、それだけ君の活躍は王宮でも話題になっているよ」

王太子殿下は怒りのマリアンの目に気付いたようだ。必死に誤魔化している。


「そ、そうですか。王宮にまで俺の名前が」

いや、絶対に違う。マリアンの家でマリアンが話しただけてで、陛下は聞いていないのでは。でも騎士団から勧誘の話がピーターのところに来たとの話だから、陛下にまで話がいっているのだろうか。


「良かったら、今日の放課後に見せてくれないか」

「よ、喜んで」

少し噛んでピーターが答えた。


「で、殿下、放課後は私の魔術を見ていただく約束では」

その後ろから慌ててモモンガさんがやってきて文句を言った。


「君のはもう散々見させてもらったじゃないか。私の立場から言うと君ばかり見ているわけにもいかない。今年の1年生は優秀な者が多いそうだし。そこのワイルダー嬢なんかはレイモンド爺に目をかけられたみたいだし」

「レイモンド様?」

「大魔術様だよ」

わからないという顔をしたモモンガさんに後ろからネイサンが教える。

こいつ、私より知らない。私もこのまえまで知らなかったけど。私は少し優越感に浸った。


「ワイルダー嬢も良いよね。放課後」

殿下がこちらを見て微笑んでくれた。

私は真っ赤になってただ頷くしか出来なかった。


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