第14話 強力な救援
「リーフ急げ!追いつかれるぞ!」
「は、はい!」
あれから、ビギシティに向かうため来た道を戻っていたのだが、その途中で2体のあの人間の魔物と遭遇した。
ビギシティまでまだ距離もかなりあり、こっちは魔石も半分使ってあまり余裕が無く、倒しきるにはかなり時間も魔力もリスクも必要なことが分かっていたため、現在進行形で逃げている。
ちなみにゴブリンを倒した後に、中級魔石を1つ使い、半分以上魔力は回復している。
リーフも同じく中級魔石を使って魔力を全回復しているが、2人とも3分ほどぶっ通しで走っているため体力がどんどん削られていっている。
人間の魔物の速度は普通の人間以上の速度で、ちょくちょく振り返って魔法を放たないとあっという間に追いつかれてしまう。
しかし、走りながら魔法を撃っているため、直撃させるのが難しく、さらに異常な耐久力も兼ね備えているため、なかなか引き離せない。
「なんで、こんなにしつこいんですか……!」
息を荒らげながら、隣のリーフが呟く。
「さぁな、一旦視界に入れたら死ぬまで追っかけてくる、とかいう習性でもあるんじゃないか?
〈集いし魔力よ〉!」
『マジックショット』の詠唱を終え、チラッと後ろを振り返り、デュアルアクションを発動させて2発放つ。
あの魔物とは約10mほど今は離れている。
「ガァァッ!!」
狙いが定まらず、1発は外れ、もう1発は肩に当たるが少し速度を落としただけに過ぎなかった。
「やっぱり直撃させないと効果が薄いな。
ここは、攻撃魔法じゃなくてこれを使うか。
〈隔てよ土壁〉!」
初級土属性魔法の『アースウォール』をデュアルアクションの効果で2体の少し前に発動した。
本来土属性魔法は魔法発動速度が遅く、『アースウォール』ができる前に駆け抜けられてしまうが、真・無属性の効果で魔法発動速度は無属性と同じになるため、何とか間に合う。
「まあ、『アースウォール』は初級魔法だし、規模も小さいから大した時間稼ぎにもならないだろうけど。」
『アースウォール』は畳二畳分程の大きさだ。横に少し移動するだけで簡単に突破される。そう思いながら後ろをチラッと見ると
「「ガァァァッ!!」」
「うそん」
拳一発で『アースウォール』を粉砕していたのを目撃し、変な声が出た。
「私が『エレキバインド』をしましょうか?拘束出来ればかなり時間稼げると思いますけど。」
『アースウォール』が粉砕されたのを一緒に見ていたリーフがそう提案する。
「いや、真・無属性で防御力が下がっているとはいえ、『アースウォール』を一撃で粉砕するほどの力を持ってる。多分、『エレキバインド』で拘束しても、すぐに力ずくで突破される。」
「じゃあどうすれば……。」
前の体と比べて、魔力がこの体にはあり、体力も強化されて前よりも長く走り続けることが出来る。
今も、もし前の体だった場合、とっくに体力が無くなっていただろう。
5分ほど走り続けており、まだ少し走ることが出来るが、いつまで走ればいいのか検討がつかない。
それに、魔力量が俺よりも少ないリーフを見ると、かなり体力を消費しているようで、きつそうな表情をしている。
早めに決断をしなければならないが、案が思い浮かばない。
逃げるのをやめて正面から戦ったとする。
さっきの時みたいに、休憩したあとじゃなく、体力が少ないため、リスクがある。それに2体もいるから負ける確率が高い。
どこか物陰に隠れる?それも難しいだろう。
先程『ダークスモーク』を使い、幻影で惑わしその間に隠れたが、嗅覚がいいのか、それとも視覚や聴覚がいいのか……すぐに見つかってしまった。
故に、逃げるしか選択がないが、ビギシティまでまだ少し、距離がある。
こうなったら……
「リーフ、俺が時間を稼ぐから、先に逃げてろ!」
「え、えぇっ!?そんなこと出来ませんよ!」
俺が囮になればリーフは、逃げれる。
別に自己犠牲とかそういうのでは無く、リーフが逃げるまで時間を稼いだ後に、『パワーライズ』をデュアルアクションを使って、両足を強化し、逃げるのだ。
しかし、リーフは俺が犠牲になると思っているらしく、首を縦に振らない。
「私は……私のせいで死なれたら多分一生後悔します!私が囮になりますので、ユウキさんが逃げてください!」
「断る!ちゃんと俺は逃げ帰れるから、リーフが先に逃げるんだ!」
互いに焦っているため、若干声を荒らげながら走る。
2人とも言い合いになって前方を見ていないのが、悪かった。
「ぐっ……!?」
お腹に何かが突進してきたのか、強い衝撃に襲われ後ろに吹っ飛んでしまう。
「ユウキさんっ!?っ……グレイウルフ!」
リーフの声が若干遠く聞こえる。
お腹の痛みをこらえて立ち上がると、目の前にはグレイウルフがいた。
俺の目の前にいるやつ以外にも2体のグレイウルフがリーフに襲いかかっていた。
そしてすぐ後ろにあの魔物が追い付く。
「まずい……な。」
初級ポーションを飲み干し、とりあえずお腹の痛みを軽減させる。
昨日購入した防具がなければ、もっとダメージを負って、初級ポーションじゃ治しきれなかっただろう。
「「グルルル」」
「「ガァァ」」
まぁ、防具があるからと言って、周りを魔物達に囲まれ、絶体絶命の状態が覆ることは無いのだが。
「〈我は力を求む〉!」
飛びかかってきた、グレイウルフを体勢を低くして回避しながら、『パワーライズ』をデュアルアクションで両足にかける。
リーフの方をチラリと見る。
ギリギリではあるが、魔法でグレイウルフの攻撃を防ぎながら、攻撃していたのを見て、リーフを助けるのを後回しにしてこっちに意識を集中させる。
今助けに行ったところで、グレイウルフも人間の魔物もリーフの元に行ってしまうからな。
「ガァァァッ!!」
1体の人間の魔物が、両腕を伸ばしながら突っ込んでくる。
こんなに接近されては、魔法を使うと自分まで巻き添えを食らう。
「はっ!」
人間の魔物の両腕を掴んで下へと引き込み、頭が俺のお腹辺りまで下がったのを見て、そこに『パワーライズ』で強化した足で、顔面に膝蹴りを容赦なく叩き込んだ。
「ガッ……ァ」
頭に相当衝撃が走ったのか、ふらふらしている。
「効いてる……!頭が弱点か!」
頭が弱点らしく、さらに頭目掛けて膝蹴りを叩き込もうとすると、もう1体の人間の魔物が横から飛びかかってくる。
「ちっ……!」
飛びかかってきた人間の魔物を邪魔するように、今腕を持っている人間の魔物背中を蹴って、2体の人間の魔物同士を衝突させて、転倒させた。
そこに『マジックショット』を撃とうと、右腕を構える。
「ガルルッ!!」
人間の魔物にダメージを与える絶好のチャンスだったが、そこにタイミングよく……いや、悪くグレイウルフが再度突進をしかけてきた。
「いっっ!?」
『マジックショット』を放とうとしていた右腕の右肘あたりまで噛み付き、食いちぎろうとしてくる。
「このっ!〈風よ阻め〉!」
「ギャウン!?」
無防備なグレイウルフのお腹に膝蹴りを1発入れ、噛み付きが緩んだ瞬間に、『ウィンドブロウ』を放つ。
至近距離で放ったため、グレイウルフが吹っ飛ぶが、俺もその反動で後方に吹っ飛ぶ。
「いってぇ……。」
体全体に衝撃が走る。右手を見ると、出血していた。しかし、本気でグレイウルフが噛みちぎる前に離すことができたので、そこまで深い傷ではない。
そして、お相手のグレイウルフはと言うと……
「ガ、ガフ……。」
口から血を吐き、牙などがへし折れ、ボロボロになっていた。
口内という防御出来ない所に魔法を撃ち込んだのだから、まあそうなるだほう。
『ファイア』を使えれば多分倒せたが、右手をグレイウルフの口内に突っ込んだ状態で放ったら、俺の右手が大火傷すると思い、無属性初級魔法の中では比較的低威力な『ウィンドブロウ』を使った。
「ガァッ!」
「全く、次から次へとっ!」
膝蹴りを入れていない方の無傷の人間の魔物が起き上がり、襲いかかってきた。もう片方はまだふらついている。
「っ!今切れるか……。」
少しバックして距離を取ろうとすると、ちょうどタイミング悪く、『パワーライズ』の効果が切れて、足が重くなる。
「ガァァァ!!」
足が重くなり、回避も魔法の詠唱も間に合わない。
もうどうすることも出来ず、とっさに顔を腕を前にクロスすると……
「ガァッ!?」
俺の顔を掠めるように魔法が通り、人間の魔物の頭だけを撃ち抜き、人間の魔物は絶命した。
「は?」
一瞬の出来事で呆気に取られ、魔法が飛んできた方向を見る。
「ユウキさーん!」
そこには、2体の絶命したグレイウルフとリーフ、それに、大剣を持った40代ほどの男性と同じくらいの歳の魔法使いっぽい杖を持った女性がいた。
「ほら、アイオン。あなたも少しは動きなさい。」
魔法使いっぽい女性が、大剣を持った男性の背を杖で軽く叩く。
「はいはい、分かってるよ。少年ボロボロじゃないか。ちょっとどいてな、おっちゃんが片付けてやるよ!」
アイオンと呼ばれた大剣を持った男性が、気だるげそうに俺の横に立ち、俺に視線を向けると笑いながら、首で後ろに下がれと合図をする。
「あ、あぁ、お願いするよ。」
『ウィンドブロウ』の反動と、グレイウルフに噛まれた右手に、元々結構走っていて体力も余裕が無いところに、『パワーライズ』の効果切れで足が重くなっている。
自分の状況を客観的に解析し、確かにボロボロだなと思いながら、体力の少ない体を引きづり後ろへと下がる。
「ユウキさんっ……て、大丈夫ですか!今回復魔法を使います!〈負いし傷にて苦しむ者に・安らぎの光・照らしたまえ〉」
リーフがグレイウルフに噛まれた俺の右手を見て、俺の右手を柔らかな両手で包み込んで、初級光属性魔法『ヒール』を使用する。
怪我を治す効果を持つ光が俺の右手を包み込み、怪我がみるみるうちに治っていく。
通常の『ヒール』では、この怪我は、回復力が足りずに、完全には治せないだろうが、リーフのスキル回復魔法使いにより、回復力が上昇し完璧に治すことが出来た。
「ありがとうリーフ。それにしてもこの人達は一体?」
右手に触れ、傷が無くなったことを確認し、リーフにお礼を言い、魔法使いの女性と、アイオンを見る。
「私がグレイウルフと戦っている時に、通り掛かったらしくて加勢してくれたんです。
お二人共Bランクと高ランクなので、あの人間の魔物も大丈夫だと思います。」
「あなた達、災難でしたね。あの魔物……通称ヒューデッドは、タフで足が速く、高い攻撃性と攻撃力、それに聴覚が優れており、1対1で戦うのならば、Dランク以上でないと苦戦を強いられる相手です。」
「あー、やっぱりか。道理で俺達だと、倒すのに手こずるわけだ。2人ともEランクだしな。」
リーフに視線を向ける。
「でも、どうしてこの辺りにヒューデッドが現れるんでしょうか?Dランク以上でないと苦戦するということは、ヒューデッドは少なくともDランク下位ほどのステータスを持つはずです。
ビギシティ辺りに生息する魔物で1番ランクが高いのは、Eランクのグレイウルフと前に来た時に教えてもらったのですが……。」
「それはな、ヒューデッドは最近現れた新種の魔物だからだ。」
後ろから男性の声が聞こえ、振り返ると、大剣を肩に担ぎながらアイオンが歩いてきた。
「おや、もう倒したのですか?」
「あぁ、グレイウルフは弱ってたし、ヒューデッドも若干ふらついてたしな。少年、すげぇな。」
大剣を背中にある巨大な鞘に収めながら、こっちに視線を向ける。
「どうも……でも、自分で倒せなかったのが悔しいな。」
おそらくあの3体を倒せば、もう少しステータスが上昇していただろう。
「まぁ、あんなクソだるいがそこそこの魔物2体とグレイウルフにあんだけ善戦してたから誇ってもいいと思うぜ?それに若いうちに無理ばっかしてたらどっかでコロッと逝っちまう。あんまり無理すんなよな。お嬢ちゃんもな?」
「わ、分かった。」
「はい。」
先程までのどこか気だるげな雰囲気から一変し、急にまじめ顔で言うもんだから、少し驚いてしまった。
「ほら、先輩面するのもいいけど、ヒューデッドを見つけたんだから冒険者ギルドに報告しに行きますよ。
あなた方はどうしますか?もし、ビギシティに行くのであれば、一緒に行きませんか?」
「俺達もクエストは達成したし、ちょうどビギシティの冒険者ギルドに行こうとしてたから、一緒に行くか……それでいいよな?」
「えぇ、大丈夫です。それに4人だとヒューデッドが来ても、撃退出来そうですしね。」
リーフに尋ねると、予想通りの答えが返ってきたので、一緒にビギシティに帰還することになった。
今回使用した魔法
ヒール 初級光属性魔法
回復力 F−
魔法制御力 G+
消費魔力量 G
詠唱
負いし傷にて苦しむ者に・安らぎの光・照らしたまえ
説明
癒しの光を放ち、軽い怪我なら治すことの出来る魔法。
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