13-16 持久戦
海から突如襲い掛かったクラーケンの触手による攻撃は、フィリスの剣によって阻まれた。
「良し!」
そうルミナスが叫ぶ。
しかしアリシアは警告する。
「切り落とした触手に気をつけて!」
アリシアが言った通りその切り落とされた触手は、いまだにウネウネと動きまわっている。
「『
即座にルミナスが魔術で凍結させて対処した。
「ありがとルミナス!」
あのままの触手を放置していたら触れた途端に纏わりつかれて、身動き出来なくなる恐れもあった。
触手を切断されたクラーケンは特に怒った様子もなく不気味にたたずんでいる。
「再生していく⋯⋯」
フィリスが言った通りクラーケンの切断された触手が再生していた。
「ただ切っただけじゃ無駄みたいね、これならどう!」
ルミナスは『
まず一つ目は『
そして間髪をいれず二つ目の『
「再生しない⋯⋯さすがルミナス」
そうアリシアが思った時クラーケンは、その焼かれた自分の触腕を食いちぎってしまった。
「え⋯⋯自分の手を食べてるの?」
フィリスは思わずゾッとする。
「⋯⋯美味しいのかしら、アレ」
そんな発言をするルミナスにフィリスはドン引きだった。
「あんなの食べたいなんて、これだから帝国人は⋯⋯」
「何よ! アレ見たら蛸みたいで案外いけるかもって思うじゃない!」
クラーケンから注意を離さずアリシアは冷静に呟く。
「クラーケンの触手は毒があるから、食べるのはオススメできないな⋯⋯」
「だってよルミナス」
「知ってるわよ!」
そんな事を言いながらも真面目にアリシア達は戦い始めたのだった。
一方その頃ミルファは⋯⋯
砂漠の防衛線の空に居た。
今セロナンに迫ってくる魔獣の種類はサンドワームがほとんどで、空にいれば安全だった。
その為ミルファは空から戦場を俯瞰して、被害が出た場所へ素早く移動して治してまわるという役目になった。
「⋯⋯向こうも始まったみたいですね」
ミルファは砂漠から少し目を逸らし海岸の方を見た、その時派手な爆炎が上がる、おそらくルミナスの魔術だろう。
ミルファは悔しかった。
何故自分は今あっちで戦っていないのか⋯⋯と。
クラーケンは目撃情報も少ない海の最大の魔獣の一体だ、しかしその戦闘能力は物語などによく出てくるためミルファでも熟知しているほどだった。
そのミルファの知識では自分はどう立ち回っても役には立てそうもない、それどころか足を引っ張る可能性の方が高いと判断した。
だからこっちで治療に専念すると決めたのだ。
そう決めたのにミルファには後悔が募る。
「もっと強くなりたい⋯⋯みなさんと一緒に戦えるようになりたい⋯⋯」
そう呟きミルファは気持ちを切り替えた。
今自分が成すべきことを⋯⋯今度も誰も死なせないミルファの戦いが始まる。
アリシア達がクラーケンと戦闘を開始して三十分が過ぎた頃⋯⋯
「おーい、そろそろ起きろー」
そう言いながらペシペシとアトラはラティスの頬を叩いていた。
「痛いじゃない! 何するのよ!」
「やっと起きたわね」
「アトラ! ⋯⋯ここはどこ?」
どうやらラティスは状況が把握ができてはいないらしい。
「アンタが歌ってた海岸から少し離れた場所よ」
そう言ってアトラは元居た位置⋯⋯クラーケンを指さした。
「な⋯⋯クラーケンじゃない! 何あのデカいの! 早く逃げないと!」
「へ―逃げるんだ、アンタが呼び寄せたのに」
「私が呼んだ⋯⋯ですって?」
「覚えて無いの? アンタが歌った呪歌で来たのよ、アレ」
「私が⋯⋯覚えていない、そんな事私知らない!」
「まあどうでもいいけど、逃げたきゃ逃げれば?」
「アトラ、貴方は逃げないの?」
「今戦っている人達がいるのよ、そいつらがいるから大丈夫でしょ」
思わずラティスはアトラの顔をじっと見た。
「⋯⋯何よ?」
「珍しいわね、アトラが他人をそこまで信用するなんて⋯⋯」
「信用するわよ、自分の力を正しく理解して使ってる人はね」
「⋯⋯」
ラティスはその自分を見るアトラの視線が「あんたは信用していない」と言ってるように感じた。
別にラティスは今更アトラに信用されなくったって構わない。
でもこの時何故かラティスは悔しかった。
ずっと一緒に居た自分よりも、信用すると言われた人間たちに嫉妬する。
そしてラティスは見つめた、クラーケンとアリシア達の戦いを。
戦いは泥沼の長期戦になり始めていた。
フィリスがいくら触手を切りまくっても一時しのぎにしかならず、すぐに再生する。
迂闊に接近できないフィリスと違ってアリシアとルミナスは遠距離から攻撃を仕掛けるが、ブヨブヨした体にあまり効果がないようだった。
「駄目よ! あんな戦い方じゃ!」
そう叫びラティスは飛び出そうとした。
「何処へ行くのよ?」
「アレを取ってくるわ!」
「え⋯⋯アレを? 今から?」
「ノロマのアトラと違って私なら間に合うわよ⋯⋯だからあの人間たちに伝えて!」
それだけ言い残してラティスは泳ぎ始めた、とてつもない速さで。
「あいかわらず早いわね⋯⋯」
ラティスの身体能力や水操作系の精霊術は人魚族でもトップクラスだった⋯⋯アトラと違って。
そんなラティスの能力を知っているアトラは行動する。
「⋯⋯しかたない、伝えてあげるか」
こうしてアトラはアリシアにメッセージを伝えるべく近づくのだった。
「魔女!」
「アトラ! 危ないよ! こっちに来ちゃ駄目!」
アリシアは次々と強力な魔力砲をクラーケンに叩き込みながら、アトラに警告する。
この時アリシアはわりと焦っていた、クラーケンの動きがトリッキーすぎてもっと強力な大技を打つチャンスが無いのだ。
正直ここまで手こずるのは完全に想定外だった。
確かにクラーケンの攻撃は脅威だ、しかしよけられないほどじゃない。
問題なのはここまで耐久力があった事だった。
いつぞやの巨大
「アイツが今クラーケンに効く武器を取りに行ったから、もう少し粘りなさい!」
「武器? 種族特効の魔法武器なの?」
「詳しくは知らないわ! 昔から人魚族に伝わる対クラーケン用の槍があるのよ!」
その話を横で聞いていたルミナスが叫ぶ。
「どうする!?」
「待ちましょう!」
フィリスは即答した。
これまでフィリスの斬撃やルミナスの魔術やアリシアの魔法を当て続けられたクラーケンは確実に、その体力や魔力を削りつつある。
でもそろそろアリシア達は集中力の方が持たないと感じていた、なので一か八かの攻勢に出るか決断の時が迫っていたのだ。
しかしそんなやけくその焦った攻撃で倒し切れなかったらお終いだったから、なかなか踏み切れなかったのだ。
「わかった! フィリスの言う通りこのままのペースで時間を稼ぎましょう!」
結局ルミナスはフィリスを信じた、彼女の決断を。
その後アトラはいったん安全圏まで退避した。
「早く戻って来なさいよね⋯⋯」
遠くを見つめるアトラ、まだラティスは帰って来ない。
クラーケンとの戦闘開始から一時間が過ぎた頃、さすがにアリシア達にも疲れが見え始めた。
時折アリシアが渡したエリクサーを飲んだりして一息つくが、クラーケンのタフさにそろそろねをあげそうだった。
そんな時だった。
水平線の彼方から激しい水しぶきを上げてラティスが戻って来た、その手に槍を携えて。
それに気付いたアリシアは叫ぶ。
「戻って来たよ!」
「了解!」
「やっとか!」
この三人で一番まだ元気なのは『
ルミナスはもう精神的に限界で、アリシアもいつ緊張が切れるかわからないといった有様だ。
「奴の注意を引き付けるわよ!」
ルミナスが最後の力を振り絞り、叫んだ。
そうしてアリシア達が作った隙にラティスはその手の槍を構えてクラーケン目掛けて特攻した。
狙いはただ一つ心臓だ。
良し行ける⋯⋯そう思ったラティスの死角からクラーケンの触手が阻んだ。
「なっ!?」
ラティスはクラーケンの触手に捕まり宙づりになる⋯⋯攻撃は失敗した。
「ラティス!」
アトラの叫びが戦場に響いた。
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