第三章 水の都を訪ねて
03-01 私たちの活動拠点
毎年五月の初めに行われる世界会議、それに今回初めて銀の魔女アリシアが参加した。
その世界会議はアリシアの予想を超えて、とても穏やかに行われたのだった。
しかしその途中で
その事件で真っ先に動いたのは帝国が誇る魔導皇女ルミナスだった、そしてその行動はアリシア達をも巻き込み事件を早期解決へと導いた。
この事件を通じてアリシアに変化が起きつつあった、共に力を合わせる事を、この世界の一人であるという自覚を⋯⋯
アリシアは願い欲した、共に歩める仲間の存在を。
そしてその夢が叶ったアリシアとその仲間たちは、今後どう歩んでゆくのであろうか?
「問題は私たちの拠点を何処にするか? なのよ!」
今現在アリシア、フィリス、ルミナス、ミルファの四人は小さな会議室の中で今後について話し合う事にした。
今ここである程度の基本方針を決めてしまえば、現在帝国に集まっている各国の指導者達との情報共有は容易いからである。
この四人の話し合いのまとめ役は自然とルミナスが行ってゆく事になった、フィリスは戦場ではともかくこういった場ではあまりはっきりとしたリーダーシップを取ることは苦手であり、アリシアはそもそも話し合うこと自体に慣れていない、ミルファに至っては周りの三人は全て目上の存在でありそれらを差し置いて仕切るなど出来るはずもなかったからだ。
そして真っ先に決めなくてはならないとルミナスが思い発したのが、先ほどの発言である。
「拠点?」
アリシアはいまいちピンとこない。
「あー確かにそうね⋯⋯」
しかしフィリスはルミナスの言わんとする事がよく解るらしく同意する。
「あのどういう事なのでしょうか?」
ミルファもアリシア同様良く解っていなかった。
「つまり今後は私たちのこのグループは、世界を動かす中心的な立場になってゆく可能性が高い、その為その拠点がどこかの国に所属しているという事実が足枷となり、要らぬ軋轢を生む事さえあり得るという事よ!」
「同感ね」
どうやらフィリスも同じ意見らしい。
「じゃあどこにすればいいの?」
アリシアの疑問にフィリスが答える。
「魔の森でいいんじゃないかな? あそこはエルフィード王国内だけど実質魔女の独立国家みたいなものだし」
「そうね、そこだったら誰も文句は言えないでしょうね⋯⋯ただ、別の問題が出て来るけど」
「問題って何ですか?」
ルミナスの言葉にアリシアはちょっとムッとなる、別にみんなを魔の森へ招待する事に抵抗がある訳ではない、むしろ喜んでさえいたのにそれが問題呼ばわりは憤慨である。
その疑問にフィリスが答える。
「私たちがどうやって魔の森へ行くのか⋯⋯よ?」
「えっ? それは私が送り迎えを⋯⋯」
「それじゃダメに決まっているじゃないですか、魔女さま」
「私とルミナスは基本的にはそれぞれのお城に住んだままで、何かあったさいには自分たちの意志と行動でアリシアの所に集まる必要だってあるってことだよ」
そうフィリスが解説する。
「そっか一緒に住むわけじゃないんだよね」
アリシアにも問題点が見えてきた。
「あの、銀の魔女様⋯⋯」
「これからは私の事は名前で呼んで欲しい、
「そうね! お互い遠慮せずに名前で呼び合いましょう、私の事もフィリスでいいわよミルファちゃん」
「ミルファ、今後は私の事はルミナスと呼びなさい」
「⋯⋯ではアリシア様、フィリス様、ルミナス様と呼ばせていただきます⋯⋯これでよろしいでしょうか?」
「それで構わない、改めてよろしくミルファ⋯⋯それでさっき言いかけた事は何?」
とりあえずアリシアは先ほどの話の続きをミルファに促す。
「はい、私は今後アリシア様のお側で身の回りのお世話をさせて頂きますが、それでは私はアリシア様と共和国との間を取り持つというお役目を果たせません、フィリス様ルミナス様のお二方のおっしゃる通り独自の判断で行き来できないと」
今さらっと非常に重たい事を言われたが、それに関してはアリシアはあまり深く考えないことにした。
「確かに皆の言う通り毎回私が送り迎えするのも面倒だし不便、つまり皆にはそれぞれが独自に自由に森と行き来できる様にすればいいという事だね」
「そんな事出来るのアリシア?」
「魔法は万能、例えばどこにいても魔の森の私の家まで転移できる魔法具とか皆が住んでる所と行き来できる転移の扉あたりを作れば解決できる、かな?」
「ほんとにそんなのが作れるの?」
「出来る、指輪やペンダントあたりの魔法具なら一日に三回くらいまで転移可能だし、転移の扉も片方の扉を魔の森に固定しておけば魔力の供給問題も解決して常時稼働できる」
自信たっぷりに言うアリシアに圧倒されつつも、それでいいのかと思案する三人。
「アリシア、それでいいと思うけどホントに作るの? 兄様と決めた取り決めに違反しない?」
「なにその取り決めって?」
ルミナスの疑問にはアリシアが答える。
「私が依頼を受ける事の範囲に関する事、要は人や時間やお金をかけさえすれば出来る事しかしない、魔法でなければ出来ない事はやらないという取り決め」
「いいんですか? 転移なんて魔法でしかできない事のようだと思うのですが?」
ミルファの疑問にアリシアは⋯⋯
「⋯⋯まあその気になればみんなだって自力で到達可能な場所なんだし、時間の短縮程度の問題だから特に問題⋯⋯ある?」
「例えばの話なんだけど私のお母さまが早急にエルフィード王に連絡を取りたいってなった時、手紙を持った私が魔の森を経由してエルフィード国のフィリスの自室に行くなんて事が出来てしまうんだけど、いいのかな?」
「問題あるかも⋯⋯アリシア、その転移の扉って誰でも通過できるの?」
「誰でも使えるように創ることもできるけど、特定の誰かしか通れないようにも創れる」
「ではそれぞれの扉は各々の拠点と行き来する人だけが通れるように作れば少なくとも魔の森より先には進めないのでは?」
「ふむ、そのミルファの案でいいんじゃないかと思うけど、どうですアリシアさま?」
「私はそういった物が創れるだけで、それでいいのか判断できない」
「そうね、そういった所を補佐するのが私たちの役目ってことだよね」
改めてアリシア以外の三人は自分たちの使命の重要性を理解する。
「つまり纏めるとこうね! 魔の森に私たちの拠点を作る、そしてそことの行き来は自分しか通れない転移の扉で行う」
「私の場合は魔の森に住み込んで、共和国の大聖堂あたりと行き来できる様にしていただければいいと思います」
ルミナス、そしてミルファの説明を受けアリシアは頷く。
「問題はこんな大それたことを勝手にする訳にはいかないという事、後でこのままの内容でお父様達に報告するけど、アリシアそれでいい?」
「別に構わない⋯⋯いや一つ問題があった」
「問題?」
「私は共和国に行ったことが無い、その大聖堂とやらに転移で行けない、一回行っておかないと」
「それでしたら私は一度引継ぎや部屋を引き払う為に、戻らなくてはならないのでご一緒しませんか?」
「なるほど、それを含めて相談しに行かないと」
フィリスは思う、この世界会議が終わった後にミルファにくっついてアリシアが単身共和国入りするというのは父に要相談案件だった。
「でもなんか秘密基地みたいでワクワクするわね」
「秘密基地ですか? そうですね、ならいっそ離れを一軒立ててしまった方がいいかな?」
アリシアは皆を自宅に招待すること自体に抵抗はないがあのこぢんまりとした小屋に皆で集まるのはやや手狭だ、だからと言って自宅に手を入れたくない、やはりあの家はアリシアにとって師との思い出の詰まった聖域なのだ。
「あのアリシア様、大変恐縮なのですがその離れに私が住むのは可能なのでしょうか?」
「ええ、もちろん」
「あーいいなー、私たちも部屋欲しいー」
「⋯⋯そうね、私も欲しい」
ミルファの希望にフィリスとルミナスも乗っかる。
「ではそれぞれ三人の部屋に転移の扉を設置して後は皆でくつろげる大きめの部屋も用意して⋯⋯」
アリシアの想像の中で当初より離れの規模がどんどん大きくなってゆく、それがとてもワクワクするのだった。
実際にどんな間取りがいいとかそういう話は後にして、今まで決まった事を王たちに報告に行く事になった。
その小さな会議室を出て今大人たちが話し合ってるであろう大会議室へ向かう四人の足取りは軽いものであった。
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