第3話
※※※
その翌日以降、あの時会話を交わしたおじさんと再び顔を合わせることはなかった。
連日のように続く雨が二週間振りに晴れたある日、サッカーボール片手に遊んでいた俺の耳に届いたのは、「山下さんが消えた」という噂をする大人達の声だった。
あの日初めて会話を交わした、山下というおじさん。
大人達には決して関わってはいけないと注意をされていたけれど、実際に話してみると優しそうな人だった。けれど、どこか青白い顔をしたそのおじさんは、やっぱり大人達が噂するように少し変わっていたのかもしれない。
四階までしか存在しない団地で、五階に越して来たと言ったおじさん。それが何を意味するのか俺にはよくわからなかったけれど、大人達が関わるなと注意していた理由はなんとなく分かった気がした。
それから暫くしてその団地を引っ越してしまった俺には、その後おじさんがどうなったのかはわからない。
ただ、日本では年間八万人以上の行方不明者が毎年でているらしい。
事故や誘拐か、あるいはあのおじさんのように忽然と姿を消してしまったのか——。
十五年経った今、俺が知っていることといえば、かつて”生贄団地”と呼ばれたその団地が、今も確かにそこに存在しているということだけなのだ。
—完—
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