第3話 双子の女神さま(ロリっ子)
「——
タクトは意識が朦朧とする中で、誰かが語りかけてくる声を聞いた。
「——汝、疾く目覚めよ」
再び、彼の鼓膜に何者かの声が聞こえる。
一瞬、街中で自分に声をかけてくれた女性かと考えたが、呼びかけてくる声色は明らかに幼く、その女性とは別人であるように感じた。
さらに言うならば、二度目の呼びかけは、最初の声音とも違う人物のようである。
「——汝、とっとと目覚めよ」
三度、同様の言葉が投げかけられる。
この声は最初に聞こえた幼い声と同じであったが、少しだけ先程より乱暴な物言いとなっている。「目覚めよ」と言われれば起きた方が良いのかも知れない。それに、少年は不思議と先ほどまで感じていた空腹と頭痛を感じなくなっていた。
タクトは心地良い睡魔の誘惑にあっさり敗れ、もう少しだけ寝ようと、この声の主を無視してサボタージュすることに決めた。しかし、それも虚しく……。
「とっとと目覚めてって言ってるでしょ! このたわけ者め!」
突然、何者かに頭を引っ叩かれ、タクトは驚き慌てて飛び起きた。
目を白黒させて辺りを見回すと、そこは大きな部屋の中であった。いや、巨大な空間といった方が正しいかもしれない。
奥行きの分からないその空間には、家具の類は一切なかった。床には大理石のような淡いマーブル模様の石で埋められており、その中央に一本だけ敷かれた赤い絨毯の色彩とよく合っている。
その他にも、室内には色とりどりの球体がぼんやりと浮いているように見え、非常に幻想的な光景であった。
そして、部屋の中を眺めるタクトの正面には二人の女の子が立っていた。
年齢は8から9歳ほど。二人ともその年に似合わぬ端然たる顔立ちで、そのあどけない容姿の中にはどこか神々しさすら垣間見える。また、この少女らは双子であるのか、その風貌や体格も驚くほどに似ていた。まさに瓜二つである。
幸運と言っていいかは分からないが、その容姿とは対照的に、タクトから正面右の女の子は緋色の髪色と瞳、左の少女は紺碧の髪色と瞳を持ち、その綺麗な髪を肩で揃えていた。
「この人ったらやっと起きた。もう! 最初は威厳を出しつつクールに決めようと思ってたのに……。私の言葉を無視して眠りこけようなんていい度胸よね!」
「……私もそう思う、お姉ちゃん」
緋色の髪の女の子は両手を腰に当ててプリプリと怒っており、それに紺碧の瞳を持つ少女も同調する。その右手が強く握り締められていたことから、自分を殴ったのはおそらく赤髪の少女だろうと少年は推測した。
「……えっと、君たちは? 俺はさっきまで街中で倒れていたと思うんだけど……」
先刻まで苦しまされていた頭痛や空腹感が嘘のように消えていることを不思議に思いつつ、タクトはこの場の状況に混乱し、少女たちに自分が此処にいる訳を問うた。
少年の言葉を聞いた少女は待っていましたとばかりに、嬉々として自らの素性を明かした。
「よくぞ聞いてくれました! 乙谷拓人よ。私は芸術・音楽を司る神、クラリスだよ」
「フローラです。豊穣を司ります」
「……は?」
クラリスは緋色の瞳を輝かせ、そのつつましい胸を張りながら堂々と名乗った。一方、フローラはその紺碧の髪を右手でかき上げながら、淡々と物静かにその名を告げる。が、タクトは一寸、目前のこの双子が何を言っているのか理解することができなかった。
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