第4話「気持ちだけは無敵な男」

「ハッ、ハッ、ハッ、」

目の前には先程からほとんど変わった様子はない植物の化け物が目線の先に佇んでいた。

女の状態は右肩にかかった酸が進行し、首の右側から背中の右上が溶けて骨が見えかけ大量に出血している。


まずい。このくらいの傷なら『シス』が治してくれるから何とでもなるが、このままだったらジリ貧だな。だが、助けが来るまでには後10分以上もかかる…か。さあどうする?基地までは確か1kmぐらいだから逃げ切るか?いやあいつ等は今、南西部で戦っているから今はいないよな。それにバイターを置いて逃げてしまえば被害が拡大してしまうな。頼む誰か今すぐ来てくれ頼む。


—頼む


それでも女は右腕をブラつかせたまま左手で武器を構え一対一で植物の怪物と対峙している。

一方植物の怪物は今にも動きそうな様子で足を動かし今か今かとタイミングを探り歯軋りをしている。

さあ、最後になるかもしれない戦いに行くとするか!


—タッ

 


 「は?」

今突然人が現れたような気が….見間違えじゃないよな?

顔を拭っても変わらない様子で5分前に突然いなくなった民間人がそこには立っていた。


だが何故だ?何でそこに民間人がいるんだ?もしかして私が知らない新種の『オーパーツ』の力か?いや、でも何で明らかに民間人なのに。何で、どうして……..


♢♦♢♦♢♦


 「お姉さん、そんな狐につままれたような顔をしないで下さいよ。俺はこの通りちゃんとここに居ます!安心してください。」

 目の前にいる彼女は驚いたのか目を大きく見開き、口をあんぐりと開けている。そんな彼女の身体は今でも少しずつ蝕まれていっている。

 「それとごめんなさい。おれのせいでそんな風にしてしまって。」

 「いや大丈夫だ。私の事なんかよりお前はどこから出てきたんだ?」

 そう言って真剣な目で洛錬の顔を見ている。

 「あの、今は俺の事じゃなくて見るべきはあっちなんじゃないんですか。」

 洛錬は植物の怪物に指を指しながら言った。

  怪物は突然現れた洛錬に驚いたのか歯軋りを増やし、枝を漂わせながらこちらの様子を疑っている。「何か策は?」

 「勿論あります。」

 「では頼む早いところ教えてくれ。」

 「えっと、作戦という作戦じゃないんですけど俺がアイツのところまで走って行って倒すんですよ。まあ俺は魔法も使えなければ剣技とかもまともに無いんで、爆弾を貰う必要があるんですけどね。」

 「ちょっと待ってくれ奴の前に近づくだと!?腕を十本以上持っているようなものだぞ。私も五体満足の状態なら近づけるが、今の状態だと到底無理だ。それに奴と私たちとの距離は30mもあるんだ、そんな奴に近づく方法はあるのか?」

 「はい!これですよこれ。これは別の世界に行ける指輪なんですよ!」

 洛錬は左手に付けている指輪を見せた。

 「別の世界…?それは良く分からないがそやはり君が突然現れたりした力はオーパーツによるものか。」

 彼女の顔に驚きや戸惑いは残っていなかった。

 ん?今なんて言った、オーパーツ?

 「オーパーツってなんですか?」

 「えっ?」

 「えっ?」

 お互い思ってもなかったのか驚嘆の声を上げた。

 「まあ詳しい話はまた今度しよう。だが確かにオーパーツというなら勝算があるというものだな。じゃあ支援は私に任せてくれ。」

彼女の顔は納得したのか多少和らいでいる。和らいだどころか、その顔は自信に満ち溢れている。


—が、それでも彼女の怪我は今でも悪化し続けている。


「いえ大丈夫です。俺を信用して託してください。」

ああそうだたとえそれが地獄への入り口だとしても言ってしまえ。そうしないとこのままじゃ彼女は死んでしまう。それに俺は決めたんだ!俺を助けてくれた彼女に今度は俺が命を賭けて守るって。

「そんなことをしたらお前が….」

「お願いです。俺があなたの分も喰われてしまった人の分まで戦います。それに今度は俺が自分の命を張る番です。だから、だから…………」



「安心してそこで見ていて。」



「…了解した、じゃあ….じゃあ任せたぞ。」

彼女は納得と諦めたような顔で左腰に付いているポーチから手のひらサイズの水色の立方体の何かを

取り出し、洛錬の右手に握らせてきた。

 「こ、これは?」

 「これは君が望んだ爆発する『回転式圧縮型爆弾』というオーパーツだ。こいつは投げて着地した瞬間に爆発する。それにこれが見えるか、6面全てに2の目があるだろ。その目はな6から始まって徐々に減っているんだ。それと目が大きいほど威力が小さくて、さらに爆発する回数が目と一致しているんだ。」

 「つまりはサイコロ爆弾ってことか」

その見た目と内容から思わず心の声が漏れてしまった。

 「んーサイコロ爆弾か….いい響きだな、今後はそう呼ぶことにするよ。だがどうするんだ、バイターの体には魔法や炎などは効かないとさっき言ったよな。多分このサイコロ爆弾も同じように効かないと思うのだが、どうする?」

 「そんなの簡単ですよ。あいつの口の中にそいつをぶち込むんですよ。そうすれば内側から爆発して、倒せるんじゃないかなって。」

 —ああそうだ、ああいう口を大きく開いている敵は口の中に爆弾を入れれば倒せるってゲームやアニメで相場が決まっているしな。—

「確かに、生憎奴の口はまだ4つも残っているからな。」

 彼女の顔にはいつの間にか笑みが戻っている。

—スゲー可愛い—


 奴の顔に視線を向けると確かに口が4つある。どうやら1つは彼女がやったらしいか?すげーな5分間耐えつつ口を一個切り落としたのかよ。滅茶苦茶強いじゃん。

「あ、そうだそのサイコロ爆弾を投げたら急いで別の世界?に行くんだぞ。気をつけろ、前回3の目で使った時は一回の爆発が半径5m程あったぞ。だから今回の場合、退避のしようがないぐらい爆発すると思うからな。」

 顔が突然真剣な顔に戻っている。やはりこの爆弾は相当危険な物らしい。

「分かりました。ちゃんと覚えておきます。」

 洛錬はそう言った後、彼女の顔をチラッと見て、地面を蹴りだし始めた。

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