第2.30話 共同作業
待ちに待った土曜日である。午前中は、勉強としてゲームエンジンを軽く触った。運動は嫌いだが不健康になるのも嫌、という難儀な性格を持ち合わせているため、散歩にも行った。ぐうたらとゲームを作る勉強ばかりしていても、太らない所以である。
今日は秋晴さんと作業通話をする予定だ。
他の部活が使ったり祝日だったりと、二日ほど第二コンピュータ室に行っておらず、その間は一人で作業をしていた。秋晴さんとは別のクラスであり、プライベートでの交流もないため、久々に声を聞くことになる。いや、二日程度では久々にはならないのだろうか。
間食が出来るかわからないため、昼食はしっかり食べた。おかげで眠たい。失敗した。
あくびをしながら、用意が出来たとメッセージを送る。間も無くして、秋晴さんから出来ると返ってきた。
電話を掛けるというのは妙に緊張するものだ。もしも別の人が出てきたらどうしようなんてことを考えてしまう。直接携帯にかけるのだから、そんなことは気にしなくてもいいのだが。
メッセージアプリから電話を掛ける。自分で番号を打たなくてもいいので便利だ。
プルルプルルとコールが鳴ってから、もしもし秋晴です、と聞こえてきた。掛ける時は落ち着かなかったのに、いざ声が聞こえると、そういえば二回鳴ってから出るのがマナー的なことを、小学校の時に習ったなと呑気に思い出す。果たしてあれは正しいのだろうか。
「新城です、お疲れ様です」
お疲れ様ですと返ってきた。少し堅苦しいかもしれない。
「さっそくだけど、操作方法の絵見てもらえる?」
そう言うと、秋晴さんは画像を一枚送ってきた。なるほど、これは分かりやすい。
キーボードの左半分が描かれていて、使うキーは赤く、使わないキーは白くしてある。そして、Aキーに左、スペースキーに発射など、使うキーそれぞれに役割が書かれている。
「どう?」
しばらく黙ってしまっていたらしい。急いで感想を伝える。
「分かりやすいな。これでいこう」
これを描画させれば、とりあえずスタート画面は完成だ。シューティングゲームのプロジェクトを開き、操作説明の絵を描画するプログラムを書く。実行して、描画されていることを確認した。
操作方法の絵が描画されているところをスクリーンショットで撮って、秋晴さんに送る。
「こんな感じになった、いい感じじゃないか?」
元々スタート画面には背景が無く、真っ黒の画面に白い文字で選択肢を書いていただけである。白と赤で描かれたキーボードの絵を張るだけでも、多少は華やかになったと思う。
「いいと思う」
秋晴さんからもOKが出た。これでスタート画面は完成ということにしておこう。
秋晴さんが操作方法の絵を描いている間、俺はメデューサの動きと投下する爆弾を実装していた。次はそれを秋晴さんに確認してもらおう。
「メデューサのプログラムを書いた。共有フォルダに実行ファイルを入れるから、プレイしてみてほしい。それから爆弾も」
実行ファイルを圧縮して、共有フォルダにアップロードする。ついでに共有フォルダにある古いデータを消した。無料であるため、容量はそんなに多くないのだ。
「飛行機と敵が当たった時の処理はまだ書いていない。あとメデューサを倒したあとの処理もまだだ」
そういえばと思い出し、急いで伝える。こうやって声に出すと、完成までもう少し先だと実感する。
「わかった。適当に触ってみる」
適当。なんていい響きなのだろうか。目をつぶって噛みしめる。このまま寝てしまいたい。
「この回ってる紫が毒?」
どっか行きそうになっていた意識を、秋晴さんの声が繋ぎとめる。
「そうだ、飛行機とメデューサの距離に合わせて、動く幅も変わってると思うんだが」
「ほんとだ、すごい。もしかして、毒も何か描いたほうがいい?」
そういえば毒は、ただの丸を描画しているだけだった。
「あぁ、頼む」
「わかった」
とういうことで、爆弾の他にポイズンボールを描いてもらうことになった。来週も忙しそうだ。
これで今日やることは終わった。まだ時間はあるが、早く終わってもバチは当たらない。
「そろそろお開きにするか。月曜日からはいつも通りでいいな」
そう言いながら、シューティングゲームのプロジェクトを閉じる。
「あ、それなんだけどさ、確か再来週に中間テストがあるらしくて、来週からどこの部活も休みらしい」
終わるつもりだったため、通話を切りそうになった。
「完成を急いだほうがいいかもしれないな。第二コンピュータ室をずっと使える保証もない」
「私もそう思う。岡林先生もいつまで来れるかわからないし」
ゲームを作るのに岡林先生が必要かはわからないが、急がないといけないということは、二人の共通認識となった。
「他の絵も先に頼んどいていいか、もちろんテスト勉強を優先してくれて構わない」
「内容によるかな、毒と爆弾はテストまでに描くもりだけど」
無理はしないでほしいが、早く描いてもらえれば助かるのも事実だ。
「クリアとゲームオーバーの文字を描いてほしい。大文字のアルファベットで、斜めにななっているような、ちょっと待ってくれ、参考に出来そうなものを調べる」
説明の下手さが露見してしまうのを恐れた俺は、現代のテクノロジーを頼ることにした。
「あった、こういうのだ」
色々なフォントの例を載せているサイトを撮って送る。
「多分テストまでに出来ると思う。これならペイントソフトの機能使えば、自分で描かなくてもいいし」
そういえば俺も、ペイントソフトを使って文字を作ったことがあった。自分でやればよかったかもしれない。とはいえ俺も、プログラムの方を急がないといけないので、やってもらえるならありがたい。
中間テストまでに絵が出来上がるのであれば、来週中を目途に、ある程度の完成は目指せるのでなないだろうか。いわゆる、プロトタイプというやつだ。もちろん、テストプレイは中間テストが終わってからだろう。
やることが決まれば、早く作業に取り掛かりたい。お互いに、お疲れ様です、と挨拶を交わして通話を終えた。
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