第2.14話 共同作業

 学校に通う弊害として一番大きいのは、慣れると決まった時間に起きてしまうことだろう。休日だというのに、慌てて起きてしまったことを恥じる。

 カーテンの隙間から漏れる光が、目覚まし時計を照らしていた。目覚ましをオンにした記憶はないが、念のため確認する。手を伸ばし、時計の裏側を指でなぞる。

 リビングに降りると、暗い部屋が待っていた。親はまだ起きていないらしい。カーテンを開ける。

 ポットでお湯を沸かし、インスタントのスープを用意する。猫舌なため、冷めるのを待つ。湯気を眺めてるだけというのも暇なので、スマートフォンを開ける。通知が来ていることに気づく。

「午前中空いてるか?」

隆也からだ。空いてるとだけ返す。

 お椀に口を付け、スープをすする。まだ熱い。舌がヒリヒリする。

 もう一度スマートフォンを見ると、すぐに通知が来ていた。どうやらゲームのお誘いらしい。ジャンルはバトルロワイアルで、中学の頃、隆也と一緒にやっていた。

 そういえば、高校に入ってからやってなかったな。

「最近やってない、鈍ってると思うがいいか?」

三人一組のチームが複数いて、同時に競うゲームだ。一人の能力が結果に大きく作用する。

 大丈夫という単語と共に、もう一人もすでに決まっているという事も返信で来た。誰とも言わないということは、俺も知ってる人なのだろう。

 さっきよりは飲みやすくなっているスープを一気に飲み干し、お椀とスプーンを流し台に出す。台所のお菓子置き場から、賞味期限間近の湿気たお煎餅を取り出す。飲み物として、200mlくらいのペットボトルをズボンに入れる。ただのお茶だ。寝巻のままだという事に気づいたが、まぁ、いいだろう。

 入れ替わりで、お父さんがリビングに入ってくる。おはようとだけ挨拶を交わす。

 自室に入ると、ゲーム機の電源を入れた。勉強机に置かれたモニターに大きなロゴが出てくる。見るのは2か月ぶりだろうか。

 隆也ともう一人は、すでにゲームを始めているようだ。俺を含む三人のグループが作られていて、二人は通話を始めている。

 とりあえず、通話だけ参加しておく。

「聞こえるか」

正常に繋がっているかの確認が、挨拶代わりになる。

「お、聞こえてるぜ」

「聞こえてまーす」

すぐに二人の声がした。

「佐久間か、久しぶりだな」

隆也の声と重なって挨拶したのは、同じクラスにはならなかったものの、中学ではそれなりに仲良くした同級生だ。名前を佐久間 登(さくま のぼる)といい、知り合いでもとりあえず敬語を使う。そこからだんだんと、ため口になっていき、そして、もしまた明日喋ることになったら、敬語での挨拶から始まる。

 久しぶりにコントローラーを握った俺は、二人がプレイしている間に、一人で準備運動をした。ひたすら的に撃つだけのモードがあるのだ。とはいえ、2ヶ月のブランクが一日で戻るわけもないので、諦めてすぐに二人と一緒にやる。

 最初は、近況報告をしながら軽くやっていたが、そんなに話す事も無いので、すぐにゲームの方に集中することになった。

 二回目の一位を取って喜んでいた時、お腹が痛いと、隆也がトイレに行った。ゲームの世界に行きかけた思考が引き戻される。

 佐久間はこの手のゲームが得意で、今でも毎日やっているらしい。中学卒業と同時にプロチームに入るという噂も流れたが、さすがにそれはデマだったようだ。

「さすがに高校生でプロはなぁ、せめてバイトとかボランティアとか色々経験してからだな、そいうのは」

腕には自信があるのだろう、なれないとは言わない。

「それより新城君が部活に入ったってのがびっくりだわ」

ヘッドフォンの向こうから、ズビビと、何かを飲む音が聞こえた。

「部活じゃない、同好会だ」

コツンと何かを置いた音と共に、一緒だろと、○○が笑う。酒でも飲んでいるんじゃないだろうな。

「俺んとこなんて、運動部ばっかりでさぁ、先輩達が口揃えて言うんだよ、うちの文化祭めっちゃ暇だよって」

確かに、俺の通っている高校は、文科系の部活が多いかもしれない。

 朝食として持って来た煎餅を思い出し、口に運ぶ。

「まぁ、活発な奴らにはいい学校かもしれない」

湿気ていたとしても煎餅は煎餅である。一緒に持ってきたお茶で口を潤す。

「新城もその一人になったんだろ、楽しみにしてるからな」

何を楽しみにしてるんだと聞こうと思ったところで、隆也が戻ってくる。

 いやぁかいべんかいべんと喜んでいる隆也を放って、考え込む。俺は何かを見逃してるのかもしれない。

 次の試合が始まった。

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