第2.11話 共同作業

 明日が過ぎれば、土日に入る。帰宅した俺は、部屋着に着替えてすぐに、自室のベッドに寝ころんだ。最初にベッドを買ったときは、体が飲み込まれるような感覚に、恐怖を感じたものだ。 

 いつもなら、帰ってすぐに風呂を洗って沸かすのだが、今日は親が遅くに帰って来るので、ゆっくり過ごすことにする。

 勉強をすることも考えたが、さすがに疲れた。やる気が起きないわけではないが、目と肩が痛い。

 天井の模様を視線でなぞる。小さな四角が並んでいるだけなので、すぐに飽きる。

 いつのまにか、帰りのことを思い出していた。

 秋晴さんは、何か話したいことがあったのだろうか。それとも、ただ一緒に校門前まで行くだけで、何か意味があったのだろうか。

 きっと、意味なんてないんだろう。何でも意味が必要なわけではない。こうやって考えることは無駄なことなんだろう。

 無駄という単語が頭を横切った瞬間、体が温まる感じがした。何かしていないと、落ち着かない。さっさと、風呂を洗ってしまおう。

 風呂を洗い終え、冷凍のたらこスパゲティを電子レンジで温めた。リビングは、自分の部屋よりも広く、一人だと落ち着かない。椅子を引く音も、妙に大きく感じた。好きなスパゲティではあったが、味わうことは諦めて、飲み込むように平らげる。

 自分の部屋に戻り、ノートパソコンを開く。シューティングゲームを進めるつもりだったが、気分転換にゲームエンジンを触ることにした。

 ゲームエンジンを用いれば、スマートフォンで動くアプリを容易に作ることが出来る。

 最初に、画面をタップした回数をカウントする簡単なアプリを作ってみる。このゲームエンジンでは、ボタンなどの、簡易的なUIがすでに用意されている。

 まずは、ボタンと、押された回数を表示するためのテキストを用意する。次に、空のオブジェクトとプログラムを1つずつ作り、空のゲームオブジェクトにプログラムを追加する。このゲームエンジンにおいてゲームオブジェクトとは、キャラクターやアイテムなど、ゲームの中にあるものの基礎となるものだ。このオブジェクトをTestObject、プログラムをTestScriptと名付ける。

 テストプログラムを開いて、回数を入れる変数とテキストを入れる変数を追加する。ボタンが押されたときに呼び出すPushという関数を作り、そこで、押された回数に1を足す処理と、回数をテキストに反映させる処理を書く。

 ボタンは、押された瞬間や、押されている間、カーソルや指が離れた瞬間など、いろいろな判定がある。今回は、押された瞬間に、Push関数を呼び出すようにする。

 ボタンをクリックすると、ボタンに関する情報が表示されるので、先ほど作ったテストオブジェクトをドラッグアンドドロップする。すると、テストオブジェクトに入れたテストスクリプトの関数を呼び出せるので、Push関数を指定する。 

 次に、最初に用意したテキストを、テストスクリプトで書いた、カウントを反映するテキストとして、指定する必要がある。テストオブジェクトの情報を開き、テストスクリプトの欄にテキストをドラッグアンドドロップで指定する。

 これで、ボタンを押すと、テストスクリプトのPush関数が実行されて、カウントの値が更新され、その値がテキストとして画面に表示されるようになった。

 後は、ボタンとテキストの位置とサイズの調整と、画面の解像度の指定だけだ。

 UIの位置とサイズの調整は適当に済まし、画面のサイズも、自分の持っているスマートフォンの解像度を調べて、それを入れた。機種によって解像度は違うため、ゲームを世に出す時になれば、自動的に調整するようなプログラムが必要になってくるのだろう。

 今は、自分のスマートフォンで動けばいいので、細かい調整はしないことにする。

 USBケーブルで、パソコンとスマートフォンを繋ぐ。スマートフォンの設定で、開発者向けの設定があるので、そこから、デバッグモードというものをオンにする。これによって、自分のパソコンで作ったアプリケーションを、自分のスマートフォンに直接送ることが出来る。

 アプリケーションのファイル名を入力して、実行する。エラーが出た。エラーをコピーして、検索してみると、アプリケーションの名前を入力しないといけないらしい。それを設定する場所を開き、名前の欄に、CountAppと名付けた。下の欄にバージョンを指定する欄があり、せっかくなので、1.0と入れた。おそらく、このアプリケーションでこの値が増えることは無いだろう。

 もう一度実行してみる。一分ほど掛かり、大丈夫かと思ったが、スマートフォンの画面がいきなり黒くなったかと思うと、ゲームエンジンのロゴが一瞬だけ表示され、ボタンとテキストが表示された。試しにボタンをタップしてみると、タップした回数が、テキストに反映された。

 感想としては、ゲームエンジンは便利だなという気持ちと、これは一体どういう仕組みなのだろうということだ。今この場に開発者がやって来て、解説されたとしても、これっぽっちも理解できないだろうが、それでも気になってしょうがない。

 これはまずいと思い、風呂に入ることにした。まだ夜は寒く、体を洗っている間に、気持ちを冷ます事が出来る。

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