分身

 二階からの景色は今日も変わらない。古びた木造アパートは風がなくても軋んでいるように感じる。雀が電線にとまり、目の前の公園からは子どもの声がしている。平和だ。今日も平和なんだ。

 うまくもない煙草を吸って吐く。雀が木に飛んでいくのが見えた。おれも背中の羽を動かしてみる。バサバサと音がするだけで、ちっとも飛べやしない。艶のない羽は所々抜け落ちている。こんな羽で飛べるわけがない。

 ちらと振り返ると、おれの分身はまだ横たわっていた。いや、羽があるおれのほうが分身なのか。よく分からないが、間抜けなおれの寝顔を見ながら、おれは煙を吐いた。

 西日が眩しい。畳の上におれの影が伸びていく。それは不格好な十字架に見えた。



(300文字)


2023/08/05

#Monthly300

( @mon300nov )

第8回お題:鳥



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る