第2話

ホームルームが終わり、いつもより長く感じる数学2時間の日が終わったことに喜びをかみしめながら帰り支度をする。俺はとある理由で部活に入っていない。とある理由というと大げさに聞こえるが、ただ単に家でごろごろしたいだけである。中学の頃はバスケ部に入っていたし運動も嫌いではないが、自由な時間、一人でいられる時間が好きなので、その時間を確保するために部活には入っていないと言うわけだ。朝一緒に登校していた明人もバスケ部に所属しているので、一緒に帰る人はいない。一人なので帰る時にどこかに寄り道もしやすいのだが、少し寂しくもある。今日は親が忙しくて夜ご飯を作れないという連絡があったので、近くの百貨店に寄ってそのままラーメン屋でご飯を済ませることにした。現時刻は17時、ここから帰り道に沿って20分くらいでダイソーに着くので、19時には家に帰れるだろう。今日は姉の友達が家に来るらしいから、それまでに部屋の片づけや洗濯物の取り込みをしておかないと、姉になにをされるか分かったものではない。親でも知らないような俺の黒歴史や秘密を信じられないほど知っているので、親にばらされることだけはあってはならないのだ。

早歩きしながら、今日の朝のことを思い出す。


いたって普通の朝だった。

川沿いの少しでこぼこしていて人が三人しか並べないようなところをいつもどうり一人で歩いていた。朝は基本明人と登校するのだが、明人の家は俺と高校のちょうど間くらいにあるため、明人の家に着くまでは一人で登校している。そこは結構有名な商店街の側の道なので自転車もよく通るのだが、後ろから大きな話声が聞こえて後ろを振り向くとチャラそうな金髪の男子高校生っぽいやつが大声で電話しながら自転車をこいでいた。会話に集中しているのかしっかり前を見れていない。その時右の細道から彼女が歩いてきて自転者がぶつかりそうになったので、咄嗟に体を入れて彼女を押しのけた。ふらふらと漕いでいたので大きなけがはなかったのだが、その男が怪訝そうな顔をしながらそのまま去っていったことは流石にキレそうになった。その男が去るのを待ってから彼女の方を見るとなぜかすごく驚いた顔をしていた。が、もう少しのところで自転車にぶつかりそうになったのだからそりゃ驚くだろうと自己解決して声をかける。


「だ、大丈夫ですか?」


「うん、助けてくれてありがとう。」


少し動くたびに揺れるアッシュの髪に端正な目と鼻にぷっくらした唇、薄く化粧した透明感のある肌は少し大人っぽくて、俺の目を釘づけにした。おまけににこっと笑った時の笑顔は破壊力抜群で、今でも鮮明に思い出されるほど。


「……あの、このあと学校なのでもう行きますね…!?」


なぜだかお礼を言った後もずっとにこにこしながらこっちをみている彼女に顔が熱くなるのを感じて、その場から逃げたくなったので自分でもなぜなのか分からないくらい強く言ってしまった。


「うん、ありがとう。またね」


そのあとの直近のことはあんまり覚えていない。普段は絶対にしない猛ダッシュをして明人の家に着くぎりぎりで冷静になって恥ずかしさと後悔か一気に押し寄せたことは明確に覚えている。


それにしてもあの「またね」ってどういう意味だ?毎朝あの時間に通ってるのか?


さっさと買い物を済ませ、煮卵入りの野菜ラーメンと上に卵がかぶさったオムチャーハンを頬張って家に向かった。


いつも通り二個あるうちの上のカギだけを開ける。うちでは二個両方開けるのは面倒なので上のカギだけを閉めるきまりになっている。


玄関を開けて靴を脱ごうとすると、お姉ちゃんの靴と見たことない靴が一足あった。

友達がくると伝えられたのはあと一時間後の20時過ぎ。しかも3人来るらしいのでまた姉が買ってきたものだろうと思い、洗面所の扉を開けると、


目に入ってきたのはバスタオル姿で体と頬を上気させながら、目を思いっきり見開いている美少女だった。姉かと一瞬思ったが、明らかに姉にはない成熟した果実が俺の目から離れなかった。十秒ほど思考停止していた俺だが、見てはいけないものを見ているという意識が生まれ、前かがみになって後ろを向いて洗面所を出ようとしたところ、後ろから頭に衝撃が走った。遠ざかっていく意識のなかでいま見た景色は絶対に記憶に残しておこうと誓った。



10分後風呂が長引いてるため、心配になった姉が洗面所を開け、バスタオル姿の親友と弟がうつぶせで重なっていたのを見て数十秒思考停止したことは言うまでもない。





ご読了ありがとうございました。

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