第3話

黒マントの男が去り、クロンは廃墟の隅でメルリーンの治療を受けていた。


「大丈夫ですか?」


「……ああ」


クロンの体の傷は癒えている。問題は心だった。


「……あの男との事情を訊いても?」


メルリーンが本題に入る。


「聞かれていた以上、話さないわけにはいかない……か」


クロンが語り始める


「俺の住んでいた村はとある山奥の村でな。あるものを封印する一族たちの村だった」


「あるもの……?」


「信じられないかもしれないが、かつてこの世界に脅威をもたらしたという『魔王サタニアル』だ」


「魔王……サタニアル?」


ジライはまるで知らない表情を浮かべる。


だがメルリーンは違った。


「以前、姉様たちに聞いたことがあります。一悪魔でありながら凄まじい力を持っていたと」


クロンは逆に驚いた。知らなくてもおかしくないことであったから。


「知ってるなら話は早いが……。このことは当時禁句で、外部から来た人にはただの村として振舞っていた。ところがだ――」


クロンは黒マントの男を脳裏に浮かべる。


「あの男はどこから聞いたのか、外の人間でありながらそのことを知っていた。そして俺の前に現れた……」


メルリーンとジライは黙って聞き続ける。


「あの頃の俺は一族の中では弱かった。一族の恥と言われたこともあるくらいにな。


そんな中、あの男は俺に言った。『力を与えよう』……と」


「まさか……」


メルリーンが察する。


「そうだ。俺は奴の口車に乗ってサタニアルの封印の場所を教えてしまった」


「それでは……」


「確かに俺は力を手にした。サタニアルの魔力、その一端を」


「一端ということは、残りは言うまでもなく……」


ジライも察する。


「ああ。奴は俺に力を授けつつも、自身に力の大半を持っていった。そしてさらに……」


クロンの脳裏に浮かぶ村の記憶。闇の魔力に包まれ滅ぶ村。そして闇に飲まれる赤髪の少女。


「奴は村をその力で飲み干した。そして今もその力でここのように破壊を続けている……」


そこでクロンは話を終えて息を吐いた。


「質問は?」


「いえ……。ですが決めました!」


メルリーンが立ち上がって大声を上げる。


「な、なにをですかな? メル様?」


「女神見習いとしての目標です!」


「女神見習い? 目標?」


突然の単語にクロンは付いていけない。


「クロンさんにはまだ話していませんでしたね」


メルリーンは佇まいを整え、クロンに向き直る。


「わたしは女神見習いメルリーン・エイナール。次期女神候補として試練に挑む者」


「そう! メル様こそこの世界の女神……の見習いなのじゃよ!」


あまりにも突然の言葉にクロンは言葉を失う。だが言葉を絞って聞いた。


「女神見習い、なのはわかった。じゃあ目標というのは?」


「女神見習いは次期女神に向けて試練をこなすのです。それは世界に関わることなら何でも」


メルリーンはクロンの手を取る。


「クロンさん。わたしはあなたを護衛として雇い続けるとともに、あなたの復讐に手を貸します」


「なに……!?」


メルリーンの口から出た言葉にクロンは驚く。復讐という単語がサラッと出たことにも。


「わたしはあの人を止めることを女神の試練とする。どうです、じい?」


メルリーンはジライを向く。


ジライはため息をついた。


「どうせ、もう決めたのでしょう。もう止めはしません」


メルリーンは頷いた。


「何を勝手に……!」


「お願いします、クロンさん」


メルリーンがじっとクロンを見つめる。


その瞳にクロンは逆らえなかった。


「勝手にしろ……」


「はい!」


クロンの旅とメルリーンの目標。この二つが今一つに繋がった。

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