第30話 チンピラは倒すもの
次の日、俺達は冒険者ギルドへと来ていた。外には出れそうにないので、旅で倒したモンスターの報酬だけでも受け取るつもりだ。
「……気のせいでしょうか。なんか視線を感じます」
ビルデは不安そうに辺りを見回している。怖いのか、足まで震わせて身を縮こませている。
言われてみれば、やたら俺達を見ている人間が多い気がするな。いや、正確にはビルデとフェイだ。まさか正体がバレたのか?
「ここ、早く抜けるわよ。マグリスは急いで手続きをして」
フェイが俺の耳元で囁く。俺は小さく頷くと、自然にギルドの受付に行き手続きをした。
「キャッ! は、離してください!」
「ビルデ!?」
手続きを終えた直後、ビルデの悲鳴が聞こえ俺は後ろを振り返った。するとそこには五人の男に囲まれたビルデの姿があった。
その横では今にもキレて男達を焼死させかねない顔をしたフェイが立っている。
「何をしているお前ら!」
俺はハンマーを構え男達に近づく。五対一だ、不利に決まっている。それでも俺は立ち向かわずにはいられなかった。
「怖い顔すんなよ
「嘘です! 私達のこと取り囲んで無理矢理手を引っ張ってきたじゃないですか!」
「いいから二人から離れろ。今すぐにだ!」
俺は男達を睨みつける。男達は不機嫌そうにこちらを睨み、武器を手に取った。
「あーあ。俺達を怒らせちまったな。なんで誰もこの状況を止めないか分からないほど間抜けだったとは」
「……バーストモード」
俺はすぐさま戦闘態勢に入る。奴らの実力がどれくらいか知らないが、やるしかない。
「くたばりやがれぇ!」
俺は男の声と共に突進し、ハンマーを踊らせる。ビルデはその隙にスキル「影泳」を使用し男達から逃げる。
「あ、ガキが逃げ――ぐはっ!」
ビルデに気を取られた男に俺は思いっきりハンマーでぶっ叩く。その男は吹っ飛び、別の男に激突し連鎖を起こした。
「てめえ!」
リーダーと思われる男が俺の元へ突っ込んできたので、俺は後ろに引きながらハンマーを振るう。
すると男はハンマーの圧に負けて大人しく後ろに引き下がった。
「チッ。お前ら! あいつを遠距離魔法でぶっ殺せ!」
男が号令をかけた途端、俺に炎や電気が命中する。だが、それは防具とビルデの加護でほとんど効かなかった。
俺はそれを認識すると、一気に相手との距離を詰める。そしてスキル「空気叩き」を使用しまとめて男達を片付けた。
「クソっ役立たず共が! こうなったら……動くな、こいつがどうなってもいいのか!」
リーダーの男は近くにいたフェイを抱き止め、首元にナイフを突きつけた。
俺は心の中で男に対して合掌をする。既にフェイは手元から炎を出していたのだが、男は気づかなかったのだろうか。
「下等生物ごときが触るな」
フェイは男に手を触れ、男を一瞬にして火だるまにする。結果、男は悲鳴を上げて地面にのたうち回った。
「口ほどにもない。こいつらただ単に面倒くさすぎて誰にも止められなかっただけでしょ」
フェイは心底蔑むような目で男達を見ていた。俺はそれを見て少し恐怖を抱いた。
「どうだろうな、巨大なパーティーの末端なのかもしれない。まあとにかくここからズラかろうぜ」
俺はそう言ってビルデを呼ぶ。ビルデは残った男を魔法で片付けていたらしく、横に氷漬けにされた男が転がっていた。
俺達はギルドから出ると、急いで宿屋へと避難した。ビルデは動けそうになかったので、俺が抱っこして連れて行った。
「困りましたね……ここから出るのもいるのも危険になっちゃいました」
「そうだな。そこで一つ提案なんだが、少し離れた場所にモンスターが湧かない砂浜があるんだ。そこに移動して生活するのはどうかなと思ってな」
モンスターが湧かない場所は貴重だ。だから大体そこが街になるのだが、俺が提案した場所は分かりにくい場所にある。きっと誰もいないはずだ。
「うーん、私としてはそうしたいですね。この街……凄く怖いです」
「ならそうしましょうよ。あたしもここは居心地が悪いわ」
ビルデが体を震わせているのをフェイがそっと背中を撫でてなだめている。明らかにビルデにこの街は悪影響だった。
「そうするか。なら今すぐ出発しよう、今なら暗くなる前にそこに着ける」
「分かりました、すぐに準備します!」
こうして俺達はマリンロードから出ていった。二度と戻ってくることもないだろう。
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