両手いっぱいのダメ男たち
「ねぇ、これどう思う?」
そう言って、陽奈は自分のスマホの画面を陽奈に見せた。そこには相談したいであろう男性とのやり取りが載っていたのだが──。
「……何で、桜が咲いてるの?」
その一番最後、相手の男性が送ったであろうスタンプには『サクラサク』というコメントと、桜の花びらと一緒に舞い上がっているネコのようなキャラクターが
「そうなの! これの意味がよく分かんなくて」
(何かの受験に受かったってこと? ということは相手は年下?)
「この人はいくつくらいの人?」
「えっとぉ、確か大学生って言ってた」
「……そう」
社会人が大学生と付き合うのはアリなのか、とも一瞬思ったが、よく考えれば陽奈もまだ大学生と言ってもおかしくない歳である。おかしいことではないかもしれない。それに──、
(良く考えたら、受験って時期でもないか)
やはり、その前の会話のやり取りを確認しないことには、よく分からない。
「この前のやり取りとか、
「いいよ〜」
陽奈はいたって軽く返事をするが、恋人同士の甘いやり取りを見てしまうのは少し気が引ける。だが、ここは理由を探るためと割り切って読んでいったのだが。
(……何だこれ)
これが、甘い恋人同士のやり取り? いや、とてもそんな風には思えない。
だって──、
会話のほとんどが
「……これ、どういうこと?」
会話の内容が
「あー、なんかぁ、お金ないって言ってた」
あっさり、そう返した。
「…………」
「何かにつけて、奢って〜って言われるんだけど、あたしもお金そんなに持ってる訳じゃないし〜。色々かわしてたんだけど、職業聞かれて面倒だから適当に公務員って答えたのね。そしたら、なんかよく分かんないスタンプがきて〜」
まさか、これは公務員=(イコール)金持ちだと思って、良い金ズルができたわぁーいってことか。
(いや、ばかなの、この男っ!?)
信じられない。こんな男がいるのかと思わず苛立ちが募って大きな声を出しそうになったが、それをなんとか抑える。
「……とりあえず、この人とは別れた方がいいんじゃないかな。どう見てもお金目的だし」
「だよね〜。まぁ、付き合ってないんだけど」
「付き合ってないの!?」
「あっ、じゃあ次はこの人で〜」
「次っ!?」
次から次へと出てくる情報に脳がついていかないが、お構いなしに陽奈は話を進めた。
「この人は逆に会うたびに奢ってくれるんだけど、付き合ってもないのに家見に行こうって言い出して〜」
「い、家?」
「庭はどのくらいの広さがいいとか、間取りがどうとか言われるんだけど……」
「まさかの一戸建て!?」
「そもそも付き合ってないのに意味分かんないよね〜」
陽奈は笑顔で何でもないように答える。
「いや、怖いんだけど! さっきから!」
「じゃあ、次は」
(ちょっと待て、一体何人の男が出てくれば気が済むんだ!?)
嫌な予感は当たったようで、かれこれ男の数が両手の指の数を超えそうになった頃、ようやく陽奈の話がひと段落ついた。
「……とりあえず、今出てきた男の人たちはもう切った方がいいと思う。あと、今の話に出てきてない人もまだいるならそれも全部切っていい」
陽奈の周りにまともな男性がいないことがよく分かったので、ここは一気に精算して新たな出会いを探すべきだろう。何より今まで出てきた男性は誰も陽奈の内面を見ていない気がする。
見た目は少し派手かもしれないけれど、陽奈は意外と真面目で、何事にも一生懸命で。
(……私なら、絶対陽奈のこと──)
「えー、でも全員切ったら寂しいんだよね」
「え?」
途中まで考えていたことが、陽奈の言葉に遮られる。
「だって、誰かと話していたいってゆうか」
「……だったら私と話せばいいじゃない」
陽奈が寂しいというのなら、毎日連絡したって構わない。他の変な男に引っかかるよりはマシだ。
「うーん、でもなぁ」
陽奈は少し考えたような素振りを見せると、驚くようなことを言い出した。
「雪乃とじゃ、気持ちいいことできないでしょ?」
「──は?」
(それは、それはつまり、そういうことを陽奈は望んでいるわけで……)
「女の子と男の子じゃまた別っていうか」
(それって、ビッ……、いや、友人に言う言葉じゃな──)
「あたしもやっぱり気持ちいいこと大好きだし、そういうこともしたいなーって」
「いや、ビッチじゃねーか!!」
「へっ?」
気づけば、雪乃はカフェの中で思い切り叫んでしまっていた。
(しまった! 思わず声に……!)
陽奈は驚いたように、ポカンとコチラを見つめている。いたたまれなくなって、そのまま雪乃は陽奈の手を掴み、カフェの外に飛び出した。
「ちょっ、雪乃!?」
「変なこと言ってごめんっ! とりあえずうちすぐそこだから、一旦家で話そう!」
カフェが前払いするタイプのお店で本当によかった。そして、いつでも映画がすぐ見に行けるようにと映画館の近くのアパートに住んでいて本当によかった。そんなことを考えながら、雪乃は足早に自宅へと向かった。
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