第18話


病室、そこは清潔で無音でなくてはならない。何人もの患者が運ばれているために他人に迷惑をかけてはいけないから一人一人が気をつけなくてはならないからである。


だが、そこは無音とはかけ離れていた。


ジャコジャコジャコジャコジャコジャコジャコジャコジャコジャコジャコ…


金属をブラシで磨く音が部屋中に響く。

ひたすらひたすらそれを繰り返している。


「ンァァァァ!!!もう五月蝿い!!!エイリアン!!もうちょっと静かにできんのかぁぁ!!??」


一番窓際のベッド…そこでマーキュリーが騒ぎ立てる。生憎この病室は知り合いしかいないのでそれを咎める人は居ない。


「ごめんだけどマーキュリー…それは出来ないの。私の銃、改造銃だからマズルが直ぐ焼けちゃって…実銃とは言えビームは不味かった…」


「普通に地元のやつ使えば良いやろ!」


「そんな事したら軍になんて言われるか… ハハッ、上層部のヤロー共、『こんな発展途上の惑星にはエリートである君一人で十分だろう?』とか、『武器は現地配達で良いだろう?なんたってエリート様だからねぇ〜』だとか…だったら現場に来てみやがれって話だよ!ぶっ○したい…」


「お、おぉ、どうどう…すまん、やっぱどの世界でも組織って奴はクソなんやな…」


マーキュリーも見覚えがあるのかそう答える。因みにこの二人、魔法"少女"と名乗っているがガチガチの社会人である。


「絶対アイツら最年少で中将にまで成り上がった私に僻んでるんだ…予算だとか人員だとかの話に弱い事に漬け込んで…嗚呼っ…ぶっ○したい。」


「落ち着け、落ち着けって…あ、おい!エレ!!お前もなんか言ってやれや!私一人じゃどうもならん!」


マーキュリーがそう叫ぶと前のカーテンがカシャリと開いた。そこには不機嫌そうにマーキュリーを睨みつけるエレクトロダークネスの姿があった。


「そんな社会の暗い話題に私を巻き込まないでください…まだ社会の仕組みとか理解不能なピチピチのJKなんですよ?巻き込むならもっと明るい話題にして下さい。」


「もっと明るい話題ってなんやねん。メイクとかSNSの話するんか?私らそんなん一切興味ない奴らしかいないで?」


「JK…若いって良いなぁ……私だって軍学校の頃はもっと……グスッ…」


「あ〜、もうそこっ!おばさん臭い話はやめにしてください!そんなんだからプライベートまで暗くなっちゃうんですよ!!独り身で死にたいんですか!!」


「「お、おばっ…」」


「良いですか!!友達と会話するんだったら社会と政治とスポーツの話はNGです!!共通の趣味とか、ほらあるでしょ?」


「きょ、共通の趣味…?一応相手は宇宙人やで?」


「あー!今、宇宙人差別したぁー!良くないんだぁー!差別反対!!」


「うるせぇ!!事実を言ってるだけやろ!そんなんだから人種差別は無くならないんや!!」


「一言多いですよ!」


「てかエイリアン日本で何やっとんの?プライベートでなんかしてる姿思い付かんのやが…」


「え、日本で?そんな大した事はしてないよ。

朝にラノベ読んで昼に漫画読んで夜にゲームやってるだけの毎日よ。」


「典型的なダメオタクやんけ…」


「え、日本人ってみんなそうじゃないの?」


「偏見や!!それ!!」


次の瞬間、シャッと言うカーテンが開く音と共に

「もううるさい。」

と声が響く。一番ドアの近くのベッドに横たわっているイカロスである。


「エイリアン、マーキュリー、エレクトロダークネス…うるさい。今、『サメネード カテゴリー2』観てるんだから邪魔しないで。」


「サメ映画?午後ロードか?いや今冬やしな…」


「アマプラで見てる。意外に面白い。どっからでもサメ出てくる。」


「何すか、カオス。態々自分からそんな沼にハマりに行きます?普通…」


「しらないの?エレクトロ…人間はカオスを求めてる。そうじゃなきゃリンカーンがゾンビと戦ったり、冷蔵庫が人を襲ったり、サメの首が6つになったりロボットになったり砂を泳いだり挙句の果てにこの映画みたいに空飛んでタイムスリップなんてしない。」


「イカロス…この数日でだいぶB級映画にのめり込んだようで…」


「次はオバケシャーク観る。」


「だいぶ入院生活充実してるなぁ…」


マーキュリーは呟く。

正直、マーキュリーは不安だったのだ。実はここの3人の殆どとマーキュリーはプライベートな話をしたことがない。エイリアンはプライベートを仕事に持ち込まないタイプだし、イカロスも趣味とかあんまり持っていなさそう。エレクトロも趣味が合わないタイプだし。

だけどここ数日話してわかった。趣味が合わなかろうと良い奴とは話が合う。

あんまり肩を張らなくても良いのは良い事だ。


「そういやUSAの連中が来るらしいですよ。」


そうエレクトロが切り出す。

それを聞いてみんな内心舌打ちをする。USAの連中とはつまりアメリカの魔法少女チームの事だ。ここのみんなはその連中にあんまり良い印象はない。エイリアンがこの星に来た時のゴタゴタで対立した事があるからである。


「連中またつっかかってきたん?」


「まあ、今回は仕方ないでしょう。大統領が死んでるんですもん。日本の責任問題にしなかっただけだいぶ温情ですよ。」


「にしてはアルタイルに大分ご執心の様やがな…」


「自分で自国の魔法少女が最強と謳っている手前、最強と呼び声高いアルタイルが煩わしいのよ。自分が一番じゃ無いと気が済まないあの自称最強のせいでもあるんでしょうけど。」


「あれ、本当に強いんですか?」


「知らないわよ。イベントとかには良く顔を出すみたいだけど戦ってる所見た事ないし。

私の争奪戦の時も最終兵器だなんだって言って結局終わるまで出てこなかったし、そのクセ、本国では大分持ち上げられて。さぞかし他の魔法少女はご不満だったでしょうね。」


エイリアンがその話はもうしたく無いとばかりに俯くと付近にあったケータイをいじり出した。


「…あれ、メール。ブラッドポピーから?」

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