カクヨム賞 『今度の終末、あたしとキャンプしませんか?』の感想

今度の終末、あたしとキャンプしませんか?

作者 鳥辺野九

https://kakuyomu.jp/works/1177354055571066066


 カビにより人類絶滅してから半年後に女子高生がスカイツリーから飛び降りるのを止めて生きて世界を見てまわろうと綴られたキャンプ日記。拾った私が、その彼女を探す決意をする物語。


 本作は企画物で、『料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテスト カクヨム賞』を取った作品。審査に際し、最も重要視した点は「いかに料理がおいしそうに描かれているか」「料理を注文した後、その料理の登場する小説を読みながら、いつ自分のもとへ届くのかとワクワクしてしまう物語を選んだ」とあります。


 描写や表現はうまくかけているから、読者は謎に満ちた世界観をさまようことができるのだろう。

 女子高生は、たくましい。

 でも、やはり心細い。

 寂しいと思ったら生きていけない。

 人は、誰かがいるから、生きているのだ。

 だから日記を拾った誰かも、彼女に会おうと思うのだろう。


 人類絶滅した世界で生存する者の話。SFである。

 一人称、あたしと私で書かれた文体。全体の八割を占めるソロキャンプをしていた女子高生は日記であり、後半以後は主人公の語なのか、あるいは日記かは不明。なので、某社や心情など実況中継して書かれている。全体的に淡々としていて、まさに日記だ。

 女性神話の中心軌道で書かれている。

 世界は、カビにより人類絶滅したことで、生き残った女子高生は一人でソロキャンプをして他の生存者を探して旅をしている。

 倒壊しかけたスカイツリーに登り、人類が作った町並みを見て圧倒されつつ、自分が一人なことを思い知らされる。

 飛び降りようと思うも、形の変わった富士山と、白カビに覆われる自分の姿をガラス越しに見て、どうして富士山の形が変わったのかを見に行こうとするところで日記が終わる。その日記を拾った人物は世界がカビで人類絶滅したことを知っており、彼女と話したくて会おうと決意する。


 書き出しの「世界は意外と音に満ちている」より、音から本作ははじまっている。マネキンとしか話していないこと、そして「本当に人類は絶滅してしまったのか」と続く。

 その後は、彼女が一人、どうやって生きてきたのか、ソロキャンプの様子が書かれている。

 カビで人類が滅んだことを示すことが、日記からも読み取れる。

 また、新聞が半年前のものだったり、草木の茂り具合など、人の手入れがされていない描写もみてとれる。


「夜空があるはずの頭上を見上げても、まんまるに輝く月もなく、きらきら瞬く星も消えた。まるでのっぺりとした真っ黒い布を頭からかぶせられたみたいに何も見えない」

 電気が消えたことで空に月や星がなくなることはない。

 なので、「まるでのっぺりとした真っ黒い布を頭からかぶせられたみたいに何も見えない」のは本当なのだろう。

 ただこれが、世界を覆うほどの大きなものなのか、あるいは彼女のまぶたを覆う程度のものなのかは不明。

「夜になると、何かどす黒い巨大な生き物がのそのそと這い出して、街をすっぽりと覆い尽くしてしまう」そんな妄想を彼女はしている。「そいつは、そいつらはあたしのことを狙って夜な夜な歩き回っているんだ」

 不気味である。

 狙っているのなら、なぜ彼女は今も生きているのだろう。

「その何かが、人類を絶滅させたんだ」「人類がいなくなって、夜が変わったって言ったけど、それは違う。夜が変わって、人類はいなくなったんだ。今はそう思う」とある。

 仮にそうだとして、なぜ彼女はまだ生きているのだろう。灯りをもっているからなら、電気があった以前のほうが、何者かに飲み込まれることはなかったはず。

 カビが原因で人類絶滅したにしても、そのプロセスがどうだったのだろう。


 スカイツリーが傾いているのは、カビのせいだろう。金属も腐食させるのだ。コンクリートも腐食するに違いないのに、町並みはまだ残っている。半年程度では腐食しきらないのだろう。

 ということは、生物や骨もカビによって姿を消したのだろうか。

 建物より乗り物のほうが小さいので、腐食が進みやすいと思うのに、そのようには書かれていない。なのになぜ、スカイツリーや富士山の形が変わったのだろう。

 富士山の形はカビが原因ではないのかもしれない。

 噴火でもしたのなら、さすがに彼女は覚えているだろう。


「顔の半分が白カビのような色に覆われて、両目も元の焦げ茶色の瞳ではなく薄く灰色に濁った色をしている。長かった髪の毛も黒色と艶のない白カビ色と斑らに乱れ」ている。彼女もカビに侵食されているのだ。

 この半年間、顔を洗ったり水を浴びたりはしていないのだろうか。

 

 日記を拾った人は、この日記を書いて放置されてから、いつぐらい経過しているのだろう。半年? 一年? それ以上? ノートは腐食しないのだろうか。

 拾った人は今まで何処にいたのだろう。

 すべてが謎のままだ。


 サバ缶にはパスタよりもそうめんが抜群に合うという。

 食材が手に入り、人類滅亡して生き残った暁には試してみよう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る