カクヨム賞 『グルメな地竜のうまいものレシピ』の感想

グルメな地竜のうまいものレシピ

作者 しっぽタヌキ

https://kakuyomu.jp/works/16816927860666338333


 グルメな地竜は赤牛を手にいれるとともに女レニアを拾い、調理したテールスープを共に味わう物語。


 本作は企画物で、『料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテスト カクヨム賞』を取った作品。審査に際し、最も重要視した点は「いかに料理がおいしそうに描かれているか」「料理を注文した後、その料理の登場する小説を読みながら、いつ自分のもとへ届くのかとワクワクしてしまう物語を選んだ」とあります。


 サブタイトルに、村一つ壊滅・とろける赤牛のテールスープ(味変ドラゴンパウダー付き)とある。今回の料理名だと思われる。


 地竜はグルメのナンバーワン。

 

 本作はファンタジーもの。

 主人公は地龍、一人称は俺で書かれた文体。溜息一つで家を吹き飛ばすなどの行動から体が大きいことを伺わせる表現がなされ、主人公が見ているものや気持ち、自分語りの実況中継で語られている。なので読者が主人公の行動を追体験できる。しかも読みやすく、わかりやすい。

 前半はミステリー要素により、受け見がちな主人公。状況を説明しつつ、意思疎通を図ろうと反転攻勢をした結果、後半は積極的にドラマを動かしていく。

 また、女性神話の中心軌道で書かれている。

 隠しているわけではないけれども、地竜はうまいものが食べたくて最高の食材を求めている。が、人間はそれを知らない。

 赤牛がうまいと聞きつけた主人公はゼル村にたどり着くも、意思疎通の齟齬により、村人は竜の怒りを鎮めてもらおうと生贄として女を差し出した。女レニアの協力をかりて村人との疎通は測ろうとするもできなかったが赤牛を手に入れる。同時に、レニアも救うことになる。恐れられていた地竜は、グルメな姿を女を見せて共に食し、一緒に食べる喜びを知って新たな明日を迎える。


 主人公が人ではなく地竜なのも面白い。

 単純接触効果、第一印象は大事だということが描かれている。はじめに関係をこじらせてしまうと、修正は容易ではない。

 レニアが逃げ出さずに話を聞いてことで、目的の赤牛を手に入れることができたのだ。彼女まで逃げ出すか、話を聞いてくれなければ、きっと赤牛は手にできなかっただろう。

 地竜は、両親の教えを大切に守っていることがわかる。現在は独り立ちして、一人暮らしをしているのだろう。

 

「赤牛は脂肪の多い牛ではない。霜降り肉のやわらかい食感や脂の旨みを楽しむものではなく、筋肉そのもの。つまり赤身がうまい肉らしい」とある。地竜の食材裏ネットワークはそんなことまで伝わっているのかと恐れ入る。

 素朴な疑問として、地竜の食材裏ネットワークはどうやって送受信しているのだろう。インターネットみたいなものが存在するのだろうか。その場合、彼らはスマホを持っているのかしらん。

 あるいはイルカのように、独特の周波数を発信しては受信し、コミュニケーションしているのかしらん。


 本作と、熊本県の赤牛とは同じものではないかもしれないが、似ているのであれば、赤牛は肉の旨さと良質でほどよい脂肪があり、アミノ酸の一種タウリンが多く含まれているという。そのため、アルコールによる肝機能障害の改善や血圧降下などの作用があると言われてる健康ビーフであり、ヘルシーだという。


 テールは非常に硬く、旨味をそのまま味わうには煮込んで作るテールスープが最適。旨味とコラーゲンの塊なので、煮込めば煮込むほどコラーゲンがゼラチン状となり、肉はトロトロに柔らかくなって、骨と肉から染み出す出汁が格別の味わいを醸し出すという。


 おそらくは地竜食材裏ネットワークから知り得た情報から、テールスープが最適と知って、調理したのだろう。じつに便利なネットワークである。。


 地竜の作ったテールスープは、ファンタジー色の強いものではなく、私達の世界に存在するような料理だった。

 ファンタジー色として、ドラゴンパウダーなるものがでてくる。海産物からならる旨味出汁に唐辛子のような辛味成分を、家庭独自の分量で調合されたものらしい。味の素的なものかしらん。ひょっとしたら自作できるかもしれない、と思わせてくれるところもいい。

 このドラゴンパウダーには興味を注がれる。

 普段のスープに一手間くわえるとあら不思議、たちまち味変して美味しくなる。たしかに、こういうところが地竜のグルメらしいポイントだと思う。

 しかも、赤牛を手に入れて美味しく食べただけではなく、ついてきたレニアの存在がよかった。彼女がキッチンや料理を褒めてくれる。今までなに喜びを得ることができた。

 もしレニアがいなければ、この物語は、赤牛を手に入れてテールスープを作って美味しかったでおわる一人地竜飯の日常だっただろう。

 最初に求めていたものとは違うものを手に入れて、新たな未来に進んでいく。

 本作は、グルメ地竜の作ったテールスープの美味しさだけでなく、物語には変化が大切なことも教えてくれている。

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