僕らは“彼女”と恋をする
めぐむ
プロローグ
ざわざわとした喧騒の中で、スポットライトを浴びるのは悪くない。
それがどれだけちっぽけなイベント会場であっても。ただのカメラのフラッシュであっても、悪くはないものだ。
ひらりと翻すマントの裾具合も、髪の巻き具合もバッチリ決まっている。履き慣れないヒールでも、背筋を伸ばして闊歩した。
このくらいの我慢、どうってことはない。綺麗であることや褒めそやされることへの喜びは絶筆に尽くしがたく、胸を張るのに相応しかった。
何よりも、好きなことを憚らずに行える空間。この場所が好きだ。
「ミズキ」
呼ばれて振り返れば、視線の先には同じようにメイクアップした仲間たちが笑っている。
華やかで可愛い女の子たちは、一塊になっているだけで絵になった。その輪に足を踏み入れて並べば、またひとつフラッシュが焚かれる。
「ミズキさんっ」
「はい」
切羽詰まったような、一生懸命な声音。
緊張感が伝わってくるその声は、健気な可愛らしさが迸っていた。意気揚々と振り返り、そうしてぎくりと身を固める。
ぎゅと目を瞑って、一心不乱に声を出した女の子。その子がブロンドを揺らめかせて、顔を上げた。
その瞬間、彼女の動きがきっちり止まる。
見つめ合う形で、数秒。
「お……」
「お、久しぶりですね。ちょっとあっちで話しましょうか?」
彼女の言葉を遮って、その腕を奪い去った。
ビックリ顔の彼女など知らん顔で、そのままスタスタと歩を進める。周囲からは、ごゆっくりと当たり障りのない言葉がかけられた。
人混みをすり抜けて物陰に連れ込んだ彼女は、未だに驚愕を張りつけている。
人目を忍んではいるが、完全に人目を避ける場所などはない。その中でまだマシだろう空間で、彼女と向き合う。この先の展開を思うと、心が乱された。
自身の髪を引っ掻き回してでも気を落ち着けたかったが、そうもいかない。せっかく完璧にセットした髪を乱すのは、許しがたかった。
「何やってんの?」
「何って……」
「だって!」
「人の趣味に口出しなんて野暮な真似はやめて欲しいな」
肺の奥底から、ため息を吐き出した。
こちらを見上げてくる彼女の視線が、困惑に満ち溢れている。何をやっているのか? と問いたいのは、こちらとて同じことだ。
「だからって、ビックリすんじゃん!?」
「そりゃこっちも一緒だよ!」
きゃんと騒ぐ子犬のような彼女に釣られるように声を張って、すぐさま我に返った。ごほんと咳払いをして、息を整える。
見下ろした彼女は、懐疑的な瞳をしていた。
「だって、コスプレしてるとは思わないじゃん? そこまでだった?」
「そっちこそ、イベントに来るほどじゃなかったじゃん?」
「同等に扱わないでよ」
「違うとでも?」
「そりゃ、違うでしょ?」
「どこが、どう?」
肩を竦めて首を傾げば、彼女はぱちくりと大きな瞬きを寄越した。
「普段あんなイケてないお兄ちゃんが、こんな理想のミシュたんとかマジ信じらんないって話!」
「普段からイケてんだろうが!?」
「うっさい。ナルシスト兄貴!」
「こんなとこで兄だ、兄だっつーな!」
「ミシュたんで男口調やめて!」
「やかましい!」
冬の大型同人イベントのコスプレ会場にて、妹――
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