第17話 嘘も方便
「それじゃ、またな」
祐希を追い出すように背中を押すと、
「今日ぐらい遊ぼうよ~」
と幼稚園時のように祐希は駄々をこねだした。こうなると本当に面倒くさい。
「あのなぁ。明日試合なの。分かる? 集中力高めんの」
ありもしないことを淡々と話す。まぁ、嘘も方便だろう。
「いいじゃん、ちょっとくらい!」
「無理。少なからず今日は」
「陽太のケチ!」
「ケチで結構。じゃ、おかえりください」
祐希の小さな手を握って、玄関まで連れて行く。
「それじゃ、また来週」
「は~い。お邪魔しました……」
いつもよりも小さくなった背中を見送って。俺は玄関の扉の鍵を閉めた。
「あいつ。昔から何も変わんねぇな……」
ため息を零して、リビングに入った。
「あら、祐希ちゃんもう帰ったの?」
母は夕飯の支度をしながら尋ねる。
「うん。課題終わったし」
「そう」
俺はコップ一杯の水を飲み干して、定位置のダイニングチェアに座った。
「あのさ、明日ちょっと出かけてくるね?」
何も入っていないコップをジッと見つめながら言う。
「わかった。楽しんできてね?」
母は何も詮索せずに、柔らかく微笑みながらそう言った。母の笑顔を見るとなんだか安心する。これは、マザコンというものなのだろうか……。俺は違うと信じたい。
そして迎えたデート当日。俺は、とりあえず髪を整えて、浩介たちと遊びに行くくらいラフな格好で家を出た。
「ふわぁ~あ」
真っ青な空を見上げると、気持ちいいくらい大きな欠伸が出た。今日は絶好のデート日和? なんだろうか。快晴で、気温も高くも低くもない心地の良い温度。
「てか、デートってなにすんだろ……」
なんて呟きながら学校の前を通り過ぎる。校庭には夏の大会に向けて、運動部たちの激しい練習風景があった。俺も、中学のときはあんなだったな。なんて物思いに耽りながら、真っすぐ久保の家を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます