第29話 聖歴152年7月11日、辛勝
ラズが先頭で、ジューンがその後に続く、そして最後尾には俺がいた。
通路の単独ゴブリンは二人にとって大した脅威ではないようだ。
サクサクと進んで行く。
部屋に到達した。
入口でラズが中を覗く。
3本の指を立てた。
3匹ということなのだろう。
ここまで慎重にやらなくても良いが、好きにやらせるさ。
ラズの手が突入に合図をした。
ラズが部屋に飛び込み、ジューンが両手に唐辛子爆弾を持って続く。
ジューンが唐辛子爆弾を連続で二つ投げる。
一つは当たったようだ。
ジューンが背中のリックを下ろし、唐辛子爆弾を割らない様に取り出す。
そして投げまくった。
3匹のゴブリンの目を潰せた。
ラズが槍で止めを刺していく。
まあ、3匹ぐらい余裕でやってもらわないと。
次の部屋をラズが覗くと、片手を広げた。
5匹か。
たぶん苦しいだろうな。
どうするんだろう。
ラズが合図をする。
なんの合図か俺には分からない。
突入と違うという事だけは分かった。
ジューンが先行しいきなり唐辛子爆弾を投げる。
そして、入口からいったん出た。
広い部屋でなく通路で迎え撃つつもりだ。
なるほどね。
それなりに考えているって事か。
目をやられた1匹を残して、4匹のゴブリンが入口に殺到する。
ジューンが唐辛子爆弾を投げまくる。
ラズは前衛でゴブリンをせき止めている。
機能しているが、4匹をせき止めているだけでは埒が明かないぞ。
2匹、目をやられ離脱した。
離脱したゴブリンは部屋で回復を図る。
2匹同時か。
ラズに捌けるかな。
ラズは胴体を狙おうとはせずに足を狙った。
足を負傷して動きが鈍くなるゴブリン。
ジューンの唐辛子爆弾が当たった。
ところが先ほど目潰しされたゴブリン達が戦線に復帰してきた。
ラズは足を切ったゴブリンを何とか倒した。
残りの4匹がラズに殺到する。
ラズが槍でゴブリンの足をはらう。
ゴブリン2匹が転がった。
ゴブリンの弱点として軽いという事がある。
背が小さいから、当たり前だが。
良く考えている。
転がったゴブリンにラズは止めを刺した。
姿勢を低くしたラズの頭上を越えて山なりにジューンが唐辛子爆弾を投げる。
1匹が戦闘不能になった。
ラズが落ち着いて止めを刺す。
残りが1匹になったのでラズがサクッと倒す。
ラズは肩で息をしている。
連続で戦闘したからな。
俺ぐらい鍛えていれば、このくらいの戦闘は問題ないが、ラズにはつらいだろう。
「はぁはぁ、ぎりぎり」
「そうやね。余裕はなかったわ」
「辛勝といったところか」
ラズが草むらの床に寝転がった。
「少し休ませて。ジューン、警戒をお願い」
「分かった。任せてや」
俺はゴブリンから魔石を抜くとしますか。
この分だと、二人でザコの攻略は厳しいな。
ほっとしてしまった。
でもラズの闘志は衰えていない。
まだまだ、やる気だ。
8匹だとたぶん二人はやられてしまうだろう。
とれる手段といったらヒットアンドアウェイぐらいか。
だが、ゴブリンの足は速い。
後ろ向きに走るなんてなったら確実に追いつかれる。
一目散に逃げたら、他のゴブリンと合流したりして、集団が大きくなる事も考えられる。
俺なら取れる手はいくつかある。
たぶん10匹ぐらいは余裕だろう。
「何よ?」
俺の視線がラズに行ったので、ラズが少しつんけんした様子でそう言った。
「もっと、考えないと怪我をするぞ」
「分かっているわよ。でも、出来ないのよ。私にあんたみたいな体があれば」
「気持ちは分かるがな」
「どうせあんたには私の気持ちなんて分からない。くそっ、何て不公平なのよ。神を呪いたいわ」
この時、俺は何でラズをパーティに加入させたか理解した。
ラズの考えている事が俺が味わった事だからだ。
一族の中で上位の方だがトップにはなれない。
あげくにハックルには先にスキルを取得されてしまった。
ラズは女性にしては強い方だろう。
事実、ジューンの何倍も強い。
でも一流には程遠い。
男には逆立ちしても勝てないだろう。
腕の立つチンピラに負ける事も考えられる。
レベルを上げれば身体能力は上がるが、そこまで今の能力でいくのは厳しい。
能力を補うのはセンスしかないのだから。
俺と同じだ。
センスという壁が破れない。
俺はダンジョンコアの皮を剥くという裏技を使ってレベル119を実現したが、あんなのはインチキだ。
本当の強さとは言えない。
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