第2章 ゴブリン・ダンジョン編

第16話 聖歴132年9月16日、産まれた

 これは夢だ。

 討伐から帰って安心したのだろう。

 赤ん坊の時の夢を見てる。

 お包みに包まれて泣いている。


「男の子か。でかした。では鑑定師の先生、お願いします」

「【鑑定】。スキルはありませんな」

「仕方ない。スキルなど持たない奴がほとんどだからな」


 この時はうおー転生したとか、チートは何だろなとか考えていた頃だ。

 もちろん赤ん坊の時は言葉が分からない。

 今は分かるから、その時の記憶と照らし合わせて夢になっている。


 急に周りがバタバタし始める。

 医者が呼ばれ人が慌ただしく出入りする。

 赤ん坊の俺には何が起こってるのかこの時は分からなかったが、今なら分かる。

 今世の母が死んだのだ。

 出産の時の無理が祟ったのだろう。


 俺は一人ベビーベッドに寝かされた。

 ベッドメリーだったかな。

 木の人形とか色んな物が吊るされて回転する奴。

 とにかくあんな奴が頭上に吊るされている。


 やる事はないので、それに手を伸ばす。

 手を伸ばすが、手は届かず触れない。

 微妙な位置にあり、なんとなくイライラする。

 せきを切った様に泣き出した俺。


 お世話する人が様子を見に来た。


「可哀想に。奥様もさぞ無念だったでしょう。こんな可愛い子を残して」


 おしめに手が当てられる。


「おしめじゃないわね。お腹が空いたのかしら」


 乳母が呼ばれ、授乳される。

 お腹は減ってないが、たくさん飲めた。

 意外にお腹が空いてたのかも知れない。


「じゃあ、いい子でいるのよ」


 また一人になった。

 本当に暇だな

 チート出て来い。


「ばぶばぶぅ(ステータス)」


――――――――――――――

名前:スグリ LV1

魔力:100/100


スキル:

なし

――――――――――――――


 ステータスは出て来たが、チートらしきものはない。

 魔力とスキルしかないステータスなんて、しょぼいな。

 いやこれからガンガンスキルが増えるのだろう。

 そう思う事にした。

 この頃は夢があったな。


 魔力があるのなら魔法だ。

 魔力よ動け。

 そんな事を必死に念ずるが、魔力が動いた形跡はない。

 なんとなく魔力のある所は分かる。

 腹の所だ。


 分かるが、固まっていて動かない。

 説明書を寄越せ。

 また、泣きそうになる。

 我慢だ。

 我慢。

 いきんでいたら、出てしまった。


 うあーん、係の人。

 ヘルプ、ヘルプミー。


 泣いていたら、おしめが替えられた。

 世話を掛けます。


 よし、筋肉だ。

 筋肉をつけるぞ。

 まずは手足からだ。

 バタバタ運動、始め。


 俺は手足をランダムに動かした。

 ふぃー疲れたぞ。

 やばい、眠気が。

 寝てる場合じゃない。

 鍛えるんだ。


 だが睡魔には敵わない。

 俺はスイッチが切れたように眠った。

 夢の中で眠るなんて、ややこしい。


 起きた。

 また手足バタバタ体操。

 また眠気が。


 赤ん坊の時はこんなだった。

 あまりに上手くいかないので、癇癪を起して泣く事も度々。


 非常に手間のかかる赤ん坊だったと思う。

 お世話係の人には頭が下がる。


 バタバタ体操の効果はあったらしい。

 寝返りも打てるようになったし、足をずってハイハイもどきもすぐに出来るようになった。

 予定よりだいぶ早いとお世話係の人が驚いていた。


 ベッドメリーにはまだ触れないが。

 これに触るのが今のところの目標だ。

 座る事ができれば、届くような気もするが。

 


 寝返りができるようになったので、腕立て伏せと腹筋体操をする。

 本格的な腕立てと腹筋はできないから、もどきだ。

 力を入れるだけ。


 この頃の努力があるから、ポーター稼業が出来た。

 赤ん坊の時の運動って効果があるんだな。

 とにかく若いと伸びが凄い。


 知識もだが、体もどんどん成長する。

 俺はお漏らしした冷たさで夢から覚めた。

 やばい。

 この歳になって。

 慌てて確認すると、布団がめくれていただけだった。

 ふぅ、冷や冷やさせやがって。

 一応トイレに行ってから、再び寝た。

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