第21話 富倉ひとみと話の続き(3)

 「それとさ」

と、富倉とみくらひとみは話を続けた。

 ひとみは声の表情を変えていない。似たような方向性の話になるんだろうな、とは予想がついた。

 「富貴恵ふきえ、あの郡頭こうずまちって、どう思ってる?」

 そういえば。

 さっき、餃子のなくなりかたを気にしながら中華料理を三人で食べ、同学年の新入部員の話をしたとき、郷司ごうじ先輩という生徒会出身の先輩が引き込んだ末廣すえひろ晶菜あきなさめ皓子てるこに続いて、一宮いちのみや夏子なつこのことは思い出した。

 でも、その前に会った郡頭まち子のことはすっかり忘れていた。

 そこで

「地味で、印象の薄い子、と思ってるよ」

と正直に言う。

 「でも、メンバーとしては悪くない、って思ってるでしょ?」

 「まあ」

 富貴恵はあいまいに答える。

 あいさつしただけで、あとは先輩たちのほうに行ってしまったのだから、判断のしようがない。

 「センジャネのカラーガードだった、っていうんなら、才能はあるんじゃないかと思うけど」

 せいジャネット学院はマーチングバンドでは有名校なのだから。

 「それがさ」

 富倉ひとみはため息とともに吐き出すように言った。

 「どうやら、中学校三年のときに脱落したらしいんだよね、センジャネでは。つまり、落ちこぼれ」

 「はあ」

 そう言われると、納得できないこともないとは思った。

 なんとなく、だけど。

 富倉ひとみが続ける。

 「それだけじゃなくてさ、去年は英語部だったわけ」

 それで解決した疑問が一つ。

 どうして聖ジャネット学院のカラーガードだった子が、いままで瑞城のマーチングバンドに入部しなかったのか。

 別の部活に入っていたからだ。

 では、なぜそれを辞めて、ということになるのだが。

 「ところが、英語部でも去年の秋に落ちこぼれた。ぜんぜん部活に来なくなって、ほかの子に英語部の悪口を言いまくってたって。そういう子なんだよ」

 「そうなんだ」

 さらに解決した疑問が一つ。

 正しいかどうかわからない推測も一つ。

 「聖ジャネット学院のカラーガード」と聞いたときに感じたのは、こんな地味な子が、あのキラキラしてる「センジャネ」でカラーガードとして目立つなかに入っていられたのだろうか、ということだった。

 たぶん、あの郡頭まち子は、聖ジャネット学院の「キラキラ」ぶりに負けて「落ちこぼれ」になった。

 ところで、瑞城ずいじょうは外国の学校とも熱心に提携しているので、瑞城女子高校の英語部というと、やっぱり「キラキラ」感のある部活だ。

 地味な郡頭まち子はその部でまた輝こうとして、やっぱり失敗した。

 そこに、「クーデター」グループ、つまり乗っ取りグループがメンバーを集めていたので、それに乗ってマーチングバンド部に来た。

 瑞城女子高校でいちばん「キラキラ」しているマーチングバンド部に。

 自分が「キラキラしたもの」に負け続けるわけがない、と証明するために。

 富貴恵は大きくため息をついた。

 「そんな話きくとさ」

 富倉ひとみをぞんざいに見返す。

 「ますます辞めたくなっちゃうよね」

 「だから辞めないでね!」

 富倉ひとみの反応は富貴恵の予測を超えて急で、激しかった。

 「わたしは、中学校のときから、ここの高校でカラーガード、っていうか、チアリーディングをやるのをずっと楽しみにして、それで瑞城に来たんだから。富貴恵が辞めたら、郡頭まち子が好き勝手に引っかき回して、パート崩壊だからね。だから辞めないでね!」

 その富倉ひとみのことばに、富貴恵は反論しなかった。

 でも、「めんどうくさい」という印象がそれまでの何倍にもふくれ上がったのは確かだ。

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