瑞城女子高校四月物語

清瀬 六朗

愛沙と桜とラーメンと

第1話 小さい体の巻き毛の女の子

 坂道の上の空には木々が枝をさしかけている。

 まだ新緑には早いのだろう。坂道の横に植わっているのは、枯れ枝のままの木か、暗い緑の常緑樹か。

 でも、はるか高いところにあるもみじのような形の葉の木には、黄緑色の新しい葉っぱが広がりはじめている。

 空は白い曇り空だ。日は照っていない。

 この坂道は崖の北側なので、日が照っても陰になるだろう。

 どこか「深山しんざん幽谷ゆうこく」に続いて行く坂道という風情ふぜいだ。

 これが「瑞城ずいじょうの坂」か。

 進学実績的にはあまり高いランクではないお嬢様学校……。

 華やかで、元気で、ちょっとガラの悪い女子たちの学校らしい。でも、そこに続く坂という感じはしない。

 世捨て人たちが暮らす、この世からふんわり浮き上がった世界へと通じる坂道……?

 その坂道に、ふわふわと揺れるものが見えた。

 女の子の髪の毛だ。

 パーマをかけているのか天然なのか、髪の毛は巻き気味で、肩の後ろまでふわっと伸びている。

 その髪の毛が歩くのに合わせて揺れる。

 白い服に、背に背負うタイプのかばんを背負っている。

 この学校の制服は、冬服は明るい紺だと聞いた。夏服や中間服は白らしいけど、いまの季節から中間服ということはないだろう。

 上からセーターかカーディガンを着ているらしい。

 ふらふらと、とても遅いペースで歩いている。その歩きで体が大きく揺れている。

 そんな歩きをしたら、普通なら「いまにもへたばりそうな」という印象が伝わるだろうと思う。

 でも、なぜかこの子のばあいはそうではない。

 むしろ、その小さめの体が揺れるたびに、まわりにこの子の元気のかけらが飛び散っていくという感じ……?

 むしろ、うれしそう。

 ハッピーさが伝わって来る。

 景子けいこは、ふっと笑みを浮かべた。えくぼができたのも自分でわかる。

 少しペースを速めただけでこの子に追いつけるだろう。

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