第53話「ジャックポット」
武田と別れた元妻、よしのはアメリカにいた。
あの人、性格は良かったんだけど、オシッコに関しては鈍感なのよね。
本当は別れる気なんかなかったけど、最後の人生の選択かな?
よしのはパチンコ屋で、スロットをしているアメリカ人の男性トムと知り合った。
武田がパソコンの講習を受けている間、たまにスロットを打ちに行っていたのだ。
トムは自分の打っている台の設定が良いことに気づいていたが、なかなか当たらず、ついには手持ちの金も尽きてしまった。
しょうがなく帰ろうとしたが、隣りに座っていたよしのに、この台は設定が良く、もうすぐ当たり出すはずだと言って帰った。
よしのは半信半疑でトムの打ていた台の受け皿に飲んでいたペットボトルのお茶を置いた。
自分の打っている台のコインも残りわずかだから、無くなったら移動しようと思ったのだ。
コインが無くなりトムの打っていた台に移った。
わずか数回でランプが光った。
トムの打っていた台は、当たりが入るとランプが光って教えてくれるものだった。
その後も、この台は当たり続け、半日ほどで武田がもらう1ヶ月の失業保険くらいの金額になった。
よしのはトムがスロットに詳しいとわかり話しかけるようになった。
トムは数学に詳しくスロットの設定を見破るのが上手だった。
スロットには設定が1〜6まであり。当たる確率が違う。当たりやすい確率の設定で打つと勝つ確率も高くなるのだ。
よしのとトムは仲良くなり、昼食を一緒に食べるようになった。トムは美形で、一緒に歩いていると、よく振り返られた。
武田と一緒に歩いていたら、たまに避けられることがあったので大違いである。
トムの実家はラスベガスから近く、よく家族でラスベガスに行きスロットやポーカーを楽しんでいるらしい。
よしのはトムからラスベガスの話しを聞き憧れるようになった。
❃
トムと一緒にスロットをしていると、次第に勝利が上がり、本当に確率の計算が強いのだとわかるようになった。
武田と一緒にスロットをしている時は、運まかせで負けることが多かった。
武田がパソコンの講習に夢中になって、卒業が近づくころ。トムはよしのに、自分はもうすぐアメリカに帰るのだが、一緒にアメリカに行かないかと誘われた。
トムは英会話の講師で、日本人の妻が最近亡くなったので、実家のアメリカに帰るところだった。
よしのは突然の誘いに心が揺れた。
堀の深い顔、高い鼻、まゆ毛もキリッとしている。筋肉質で背が高く、歳も同じで、映画に出てくるような男性に誘われ夢見心地になっていた。
武田がトイレを汚し、夜中もドタドタと歩きバタンとドアを閉めるのにうんざりして、トムの誘いに乗ることに決意した。
❃
よしのは武田と離婚して、トムと暮らし始めた。
英会話の講師の契約が終わると、飛行機でアメリカに渡り、ラスベガスで2〜3日遊んでから実家に帰り、そこで結婚式を上げようという話になった。
トムはギャンブル好きだが、闇雲にギャンブルはしない。数学で計算して勝算のある物を選らんでいた。日本でのスロットも月間での負けは少なく、年間だと毎年勝っていた。
❃
きらびやかなラスベガスの中、スロットマシンが日本の物とはまったく違っていた。
バカでかい画面のスロットマシンがあり、現金もラスベガス用の両替にしないと使えない。
よしのはまったくやり方がわからなかった。
トムに聞いて、負けてもいいようにレートの低いスロットマシンで遊んでいた。
ラスベガス3日目。
よしのはだんだんとラスベガスの雰囲気に慣れてきた。
トムは数学の計算で長時間で勝てるやり方をしていた。そうして計算どうりにスロットマシンやポーカーで勝っていた。
あの人は適当だったわね……
「パチンコもスロットも打ち始めに当たりやすいんだ!」って言って、よく台を変わっていた……
武田は、狙った1つの台に打ち込むということはせず。スロットは当たりたがっている台は、早い当たりがくるというのが持論だった。
私も計算された理論は無理だわ、あの人みたいに早い当たりを狙ってみるわ。
よしのは、何となく当たりそうな感じのするスロットの台を見つけては、少しずつ打つやり方をした。
スロットの機種もいっぱいあり、何が当たりなのかもわからないが、何台か当たりが来て、手持ちが増えた。
気が大きくなって、掛け金も大きくしだしたら、当たりが止まらず『ジャックポット』の文字が台に書かれていた。
ジャックポットって、ゲームセンターで大量のコインが出るやつよね。
何がそろったのかわからないけど、いっぱい出るわ、素敵ねラスベガス!
スロットマシンは金額の書かれた紙が出てくる。それを両替所に持っていけば現金化してくれる。
「こんなに!! さすがラスベガスね! こんだけあれば日本で一人で暮らすことも可能ね。あの人にもらった自衛隊の退職金の半分では心もとなかったけど、こんだけあればなんとかなるわよ!」
❃
よしのは、トムに別れを告げ日本に帰った。
トムは見かけが良いし、優しいけど、あのいびきはひどいわね。一緒になんてとても寝れないわ。
トムは、お酒を飲んで寝ると、とんでもなく大きないびきをかくのだった。
いつも香水をつけていたからわからなかったけど、体臭もキツくて、私には無理だわ。
もう一度、あの人に復縁を願って、ダメなら一人で暮らそうかしら……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます