第18話「肩にアゴを乗せる」
朝、教室に入ると、
早坂さんと一文字さんが首を曲げている。
「おはようございます。今度はなんですか?」
武田が早坂さんに聞く。
「見ての通り、首ですよ。首の導引」
早坂さんと一文字さんは、首を右の肩に向けたり、左の肩に向けたりしていた。
「首、コリますからね、肩もこるし、首もこりますね。パソコンって楽そうに見えるけど、1日中やるとけっこう辛いですよ」
一文字さんは、仕事でパソコンを使っていたようで、文字入力も早かった。ワードの試験もニ級を受けるらしい。
「腕を浮かしているから長時間のパソコンは大変でしょうね。私は趣味のパソコンだからいいですが、職業としてのパソコンをするのは辛いかもしれませんね」
武田もパソコンは肩にくることを感じていた。
早坂さんは、最近、一文字さんに導引を教えている。武田に教えても、やらないのが分かっているからかもしれない。
「僕も仕事で使うとしても簡単な文章の作成程度だと思いますが、1日中のパソコンの仕事は簡便してほしいですね」
「若い人は、首の骨が真っ直ぐになる人もいるそうですよ」
早坂さんの言う首が真っ直ぐという言葉に武田はピンときていない。
「首って真っ直ぐなんじゃないんですか?」
「いえ、いえ、首は自然な状態では曲っているんです。背骨はS字状に曲っていて首と背中は微妙に曲っているんです」
「そうなんですか、首の骨なんて考えたこともないですよ」
「普通は考えないですよ。でも、ここは大切な部分なんです。外国の話なんですが、ある教会で旅行者がよく倒れることがあったそうなんです」
「それは、首の話ですか?」
「そうです。その教会には、素敵なステンドガラスが入っていて、旅行者は上を向いて何分も眺めていたら首の骨で血管を圧迫してしまい倒れるんだそうです」
「上を向いているだけで倒れる!? 本当ですか?」
「本当かどうかは、分かりませんがテレビでやっていました」
「テレビですか、でも、あるかもしれませんね。僕の部隊で耳が難聴になったのがいましてね、まだ30代だったんですが、本人はゲームとパソコンのやり過ぎだろうって言ってました」
「それは、左耳じゃないですか?」
「左耳? どっちだったかな……電話の受話器を右耳で聞いていたな、ということは左か、そうですね、左耳です」
「最近、携帯電話を右耳にあてて話している人を見かけるんですよ。おそらくパソコンなどのやり過ぎだと思います」
「パソコンをやり過ぎると難聴になるんですか!?」
「それは断定できませんが、私もパソコンを習って感じたんです。右利きの人がパソコンをすると体が、知らずしらずに右に傾くんじゃないかって」
「右に傾くとまずいんですか?」
「右に傾くと左側は伸びるじゃないですか、血管も伸ばされて血液の通りが悪くなり、耳に血液があまり流れなくなり耳の異常が出るのではないかと思います」
「体を傾けているだけで難聴になるんですか!?」
「そうじゃないかと思います。首には自律神経も走っているので、自律神経に異常を感じたら首がコッてないか確認するといいですね」
「確認って、どうやるんですか?」
「こうやるのよ!」
一文字さんが、首を曲げて肩の上にのせた。
「そうです。肩の上にアゴが乗っかれば正常と言えるでしょうね」
早坂さんの言葉に、武田もやってみるが、肩にアゴは乗っからない。
「本当にみんな乗っかるものなんですか?」
武田が言うと早坂さんは首を曲げて肩にアゴをのせた。
「首の硬さか……気にもしませんでしたよ」
「パソコンやスマホの使い過ぎで、ストレートネットと言って首のカーブがなくなっている人も多くなってるそうです」
「それも、まずいんですか?」
「血液の流れが悪くなれば、いろいろとまずいと思いますよ」
「それは、例えば“うつ病”とか?」
「病名とかは知りませんけどね。頭とか精神の病気になると睡眠に影響するといいますから、不眠症になったら首をチェックするといいと思いますよ」
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