第9話「早坂さんと雑談、その2」
「早坂さん、その、自称仙人の人にはどんなことを教わったんです?」
武田は仙人に興味があるようだ。
「仙人ですか、その人は戦争中に中国に行き、なぜか敵である中国人に仙道を教わったそうです。その人によれば仙縁があると、そういうことが起こるようです。実際には仙道の中の健康法に関する
「導引ですか、初めて聞く言葉です」
「導引は中国から巻き物が渡ってきて、日本でも行われていたらしいですよ。遣隋使とか遣唐使の時代の話ですけどね」
「そうなんですか、私は全然知りませんでした」
「今の人が導引を知らないのも当然で、明治になって政府が日本の医療を西洋医学にすると決めたようで、それまでやっていた漢方薬や導引が消えてしまったようです。漢方薬は復活しましたが、導引は途絶えてしまった……」
「そうですね、昔の人も病気を治す方法をいろいろと探していたんでしょうね」
「
「それは時代劇に出てきますね。あれは効くんですか?」
「精神的なものというのは重要だと思いますよ、血液でも導引では
「血液は精神で流れが変わるんですか?」
「そうなんです。血管っていうのは水道管のように一定ではなく、伸び縮みして血流を変化させているんです。恐怖を感じたら顔が白くなったり、愛しい人が来たら顔が赤くなるでしょう?」
「そうですね、私も自衛隊時代に失敗して血の気が引いたのを覚えていますよ。あれは不思議なものですね」
「はるか昔は医者も病院もないので、敵に襲われて怪我をしてもなるべく出血しないように末端の血液はあまり流れないようにするそうです」
「なるほど、ストレスでおかしくなる新入隊員もいました。儀式も大切かもしれませんね」
「実際の導引には火の術、水の術、循環の術なんてのもあるんですよ」
「なんですか、それは? 忍術みたいですね」
「これは仙術と言われています。慢性病や老化に凄く効くんです。私もせっかく覚えたのに世間に広まらないで、この世を去るのかと思うと心残りで……」
「そんなに効くんですか?」
「人類が誕生して、延々と健康法を考えて辿り着いたのが導引でありヨガやいろいろな健康法だと思います」
「仙道というのは今も続いているんでしょうか?」
「それが、あるらしいんですがよくわからないんです。中国では文化革命というのが戦後にあり、迷信を排除しようとして、仙道や拳法も迷信だとされ命も狙われたそうです」
「拳法もですか!?」
「昔は秘伝が多くて一般的には知られていないので迷信になってしまうようです」
「それでは仙道も無くなったのですか?」
「中国から出て台湾で続いているようですが、口伝が多かったようで大くの技が失われたそうです」
「今みたいに録画ってのはないですからね、本としては残っていないんですか?」
「本はけっこうあるようですが、時代が過ぎると読めないんです。日本にも江戸時代の導引の本があり、ネットオークションにもたまに出てるんですが、江戸時代の字はすでに読めないんです」
「そうですね。時代が変わると字も変わりますものね。私は若者の書いた字でさえ読めないのがあります」
「いまや導引は幻となるかもしれませんね。誰かが普及させてくれないものかと思いますよ」
「早坂さんが普及させてはどうです?」
「私には、もう寿命がありません」
「ユーチューブなど、スマホひとつで全国に配信することもできるみたいですよ」
「それは考えたことあるんですよ……しかし、私のパソコンのレベルでは難しいですね……」
「そうですね、私も出来ません、まだまだ実力が足りないのかな? やろうと思えば無理ではないと思いますけどね……」
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