第6話「スケベな爺さん」
「パソコンにはワードとエクセルがあります。使う用途によって使い分けます。授業ではエクセルから始めます。これは1ヶ月半後に、ちょうどエクセルの資格試験があるからです。資格試験の受験は任意ですが、ぜひ資格を取って履歴書に書けるようになって欲しいと思っています」
山口先生が興奮気味に話している。
エクセルか、聞いたことはあるが何をするのだろう? 武田はワードの勉強はタイピングをしながら本で見ていたが、エクセルは全くの初めてだった。
エクセルについての説明がされる。
机の上に置かれている3台のパソコン、真ん中は教師が使っているパソコンの画面が写し出される。その画面を見ながら各自、同じようにやってみる。
武田は苦戦している。
あれっ、何で同じようにならないんだ?
隣を見ると、お爺さんも苦戦している。武田といい勝負である。
授業は50分単位、武田は頻尿だが、50分くらいはもつ。今は行きたくないが、今行かないと次の50分まではもたないかな?授業の途中でトイレと言うのもカッコ悪いな、しょうがない行ってくるか。
武田は50分の授業が終わるたびにトイレに行った。
男性用のトイレは小便用が3つ、大便用が2つであった。休憩ごとにトイレに行っても、いつも空いているのでトイレに困るということはなかった。
トイレのそばには流しがあり、電気ポットや電子レンジが置いてある。昼休みに、お弁当を温めたり、お茶を飲んだりできるようになっていた。
コーヒーを作る機械もあり、1杯50円で豆を挽いたコーヒーが飲める。自分でスイッチを入れ、置いてある缶に50円を入れるのだが、入れたてで美味い。
武田はコーヒーが好きで休憩のたびに飲んでいた。
「武田さん、コーヒー好きだね。あんまり飲むとオシッコばっかり出るんじゃない?」
隣のお爺さんに言われ考え込む武田。
「コーヒーってオシッコに関係あるんですか?」
「あるよ! コーヒーには利尿作用があるから、飲んだらオシッコがよく出るだろ、特に夕方は腎臓の働きもよくなるから、オシッコがいっぱい出るんじゃないか?」
確かに、そうであった。武田はコーヒーに利尿作用があるなんて考えもしないでガブガブ飲んでいたのだ。
そうか、コーヒーを飲むからオシッコが近くなるのか……警備員の時も缶コーヒー飲んでたもんな。
男性用のトイレは空いているが、女性用はけっこう混むようだ。
トイレに行かないように水分を取らないで授業を受けている人が多い。
女性の生徒で一人、授業中によくトイレに行く生徒がいた。まだ20代で綺麗な女性なんだがトイレが近いようだ。
武田の隣のお爺さんは、トイレが近い女性の足を触っている。
スケベな爺だ、足を触ってなにをしてるんだ? セクハラで訴えられるぞ、いや、上司じゃないからチカンか? 俺も触りたいな……
「あなた、ハイヒールを履いてなかった?」
武田の隣のお爺さん、早坂がトイレの近い女性の足を触りながら言う。
「あたし、靴はずっとハイヒールです」
「ハイヒールは、足首が固定されて足から心臓に戻る血液が戻れないんだ。そうすると下半身の循環が悪くなって、じょじょに膀胱にも異常がでる」
「そうなんですか!? あたし子供を産んでから特に調子が悪くて、オシッコが溜まると膀胱が痛くなるんです。なにか関係あるんですか?」
「出産で筋肉や神経が傷付く人もいるみたいだよ、膀胱に菌が入って炎症というのもあるけど、それは病院にいかないとわからない……とりあえず、ふくらはぎを丁寧にもむんだ、中に芯のように固いコリがある。もめば無くなる、そうすれば膀胱の血流もよくなる。それから、寝る前に足湯をするといい」
早坂は足に詳しいようで女性にいろいろ教えていた。
一週間後、女性は授業中にトイレに行かなくなった。
靴もハイヒールではない。
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