ひんにょう物語
ぢんぞう
第1話「武田鉄男 58歳」
トイレ、トイレ、トイレ……
どうにも小便が近くて困ったもんだ。
「武田くん、勤務中にしょっちゅういなくなるって病院からクレームが来てるよ! どういうことかな?」
武田は警備会社に勤務していて、病院で駐車場の警備と夜間の受け付けをしている。
病院からのクレームで警備会社の社長に呼ばれたのだ。
「申し訳ありません。自分、トイレが近いものですから……病院のトイレが受け付けから離れた所にあるもんで……」
「君、道路の警備はトイレに行くのが不自由だからって病院の施設に変えたんだよ。それでもダメなら辞めてもらうよ」
「いゃ、社長、なんとかしますからクビは待ってもらえませんか?」
「だいたい、君は病院の警備だろ、あの病院には泌尿器科もあるじゃないか! 診てもらったのかね……」
「あっ、いや、診てはもらってないんですが……」
「明日、病院で診てもらって治療しなさい。いいね。これは、業務命令だからね!」
社長との話しは終ったが武田は病院が嫌いだった。
お袋も具合が悪くて病院に行ったら、薬の副作用で脳卒中になって亡くなっちゃったんだよな。
もし、前立腺のガンですなんて言われたらどうしよう?
いゃ、いゃ、膀胱のガンってのもあったな……膀胱取られたら嫌だな。
❃
翌朝、病院。
「すいません、診察、お願いします」
「はい、え! 診察ですか? あなた、警備の人ですよね……」
「えぇ、そうなんですが……」
「どこが悪いんでしょうか?」
「あの……ひん……で」
「ひん?」
「ひんにょうで……オシッコが近いんです」
「あっ、頻尿ですか。泌尿器科ですね」
警備会社の制服のまま仕事場の病院で診てもらうことになった。大きな総合病院で泌尿器科もあった。
まいったな……受け付けの女の子、可愛いのに、俺が頻尿だとばれちゃつたよ。
色恋の歳でもないけど、頻尿のおじさんと思われるのも情けないな……
いろいろと考えながら歩いて泌尿器科に向かう武田。
ここか、泌尿器科。
行きたくないな、しかし、業務命令か……
しぶしぶ泌尿器科の受け付けに行く武田。
すぐに診てもらえることになった。
医師の問診に答える。
「たぶん、前立腺が腫れているのだと思います。血液検査の結果は明日でますので、明日また来てください。今日はお薬出しておきますから」
やっぱり前立腺か……男の宿命だね。
血液検査でガンがわかるようだったな、
PSE? そんな簡単に膀胱のガンはわかるのか、医学は進歩しているんだね。
この薬を飲めばピタッと頻尿が治ってくれないものかね。
❃
翌日、泌尿器科へ血液検査の結果を聞きにいく。
「ガンではないようです。安心して下さい。前立腺肥大でしょう。それと血糖値が上がっていますから、夜に喉が渇くんじゃないですか?」
「はっ、食後しばらくして喉が渇いて水を飲みます。夜も飲みます……」
「糖尿病の治療もしたほうがいいかもしれませんよ」
❃
糖尿病か、血糖値が上がるから水が欲しくなるんだな……あんまり薬を飲みたくないんだよな。
頻尿の薬はしかたないとして、糖尿病の薬は、まだいいだろう。
診察をしてもらい、そのまま警備の仕事についた。
薬飲んでだのに、相変わらず尿意はあるな、薬が効かないんじゃないのか?
❃
その後、薬を変えたりしたが武田の頻尿は治らなかった。
「武田君、お疲れ様でした」
武田は警備会社をクビになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます