第15話 再会の日

 ラウラの言葉通り、ミレナたちは交代で休暇をもらえることになった。そうと分かった途端にミレナは荷造りを始め、さっさと王宮を後にした。馬車に乗ってエルケ領の屋敷に帰る。


「ティモ〜! お土産とお給金を持って姉ちゃんが帰ったぞ〜!」

「えっ、あっ、ミレナ様!」


 畑で作業していたお手伝いさんが、大慌てで道に上がってくる。


「すみません、今ティモ様をお呼びします!」

「ゆっくりでいいぞ!」

「は、はいっ」


 お手伝いさんは良い返事をした割には大急ぎで屋敷に入って行った。じきにティモが屋敷から出てきた。


「姉ちゃん! 帰るなら手紙をくれりゃあいいのに……」

「ああ、ごめんなぁ。すぐにでも帰りたかったもんで」

「っていうか姉ちゃん、ほっぺに怪我をしとるんか!? た、大変じゃ!!」

「気にすんな、ティモ。私は気にしとらんからな」

「でも! 年頃の女子おなごが顔に傷なんて」

「ティモ〜。もうその言葉は他の人から聞き飽きたべ。これは私が精一杯戦った証だから、それでええんじゃ」

「そんなぁ」

「それよりも早く家に上げてくれ。土産があるんじゃ」

「ああ、うん、分かった。どうぞ、お帰りなさい」

「ただいま!」


 ミレナは荷解きをして、改めて食卓でティモとお茶を飲んだ。


「どうじゃ、何か変わりはあったか」

「そうじゃなあ……近頃はやっぱり農奴たちが不満を募らしているみてえだ。姉ちゃんの活動とかが影響して、市民のみんなも身分制度に不満を抱えとる」


 ミレナは瞬きをした。


「……もっと別の分野の話を聞けると思っとったんじゃが……意外な話になったなぁ。そんな大変なことになっているとは知らなんだ……」

「みんな姉ちゃんに憧れとるんじゃ」

「そ、そうか……」

「俺はこれから世の中がいい風に変わると思っとるよ。これで農奴の扱いが変わっていったらええなと思っとる」

「それは、そうじゃな」


 ミレナは微笑んだ。


「ルイゾンは今度こそ死んだし、シェルべもしばらくは大人しくしとるじゃろ。その間にペーツェルが良くなっていけばええな」

「うん」


 ティモは笑って、お茶を飲んだ。


「さ、これを飲んだら、私も久々に農作業に出るべか」

「姉ちゃん!? 帰ってきたばっかで疲れとるじゃろ。今日くらいは休んだらどうじゃ」

「いやぁ、大丈夫だべ!」

「姉ちゃんはいっつも加減を知らんから! 頼むから俺の話も聞いてくれんか」

「聞いとるよ?」

「じゃあ今日は休んでけれー! みんな、姉ちゃんを寝室に案内するんじゃ」

「はい、ティモ様!」


 お手伝いさんたちがわらわらと寄ってきてミレナのことを捕まえてしまった。


「あれまあーっ。ティモ、何ちゅうことをするんじゃーっ」

「姉ちゃんの暴走を止めるにはこれしかねえんじゃ!!」

「ありゃあーっ」


 ミレナは寝室送りになり、強制的に休まされることとなった。


「……」


 ミレナは一人で薄く笑った。


 ティモがこれまでしっかりと留守番をしてきたらしいことが分かって、安心したのだ。


「ティモの言う通り、この国がもっと良くなるとええなあ」


 ひとりごちたミレナは、素直に椅子に座り、しみじみとこれまでの戦いとティモの未来のことを頭に浮かべて、考え事に耽った。



 おわり

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