コラジオ(1-2)
「うっ、いてて。ここ、どこだ?」
意識を取り戻したコラジオが見上げていたのは知らない天井だった。ぼーっとする頭でこれまでの出来事を思い返したコラジオは、慌てて寝台から飛び起きる。
「そうだ、俺っちは追いかけられて!」
捕まってしまったのだとコラジオは自分の身体を観察し、欠損もなく何にも縛られていないことを確認して安堵の息を吐いた。
「なら、ここはどこだ? 捕まえたならこんな状態で置いておかないよな?」
目を覚ましたコラジオの身体は寝台の上で自由なだけでなく、傷だらけの身体を包帯で手当てされていたのだ。
周囲を見回してみても物騒な物はなく、落ち着いた寝室という印象の部屋でしかない。唯一の出入り口も鍵がかかっている様子はなく、コラジオは捕まったのではなく誰かに助けられたのだと気がついた。
「おや、もう起きましたか」
「あんたは……」
ガチャリと扉が開かれ、顔を覗かせたのは黒髪の青年。その姿をしばらく見つめて、コラジオは気を失う直前を思い出す。
「あぁっ、十字路の時の! あんたが俺っちを助けてくれたのか!」
「はい。貴方が道端で突然怪我だらけで倒れたものですから、保護させていただきました」
にこりと笑みを浮かべる青年を見て、コラジオは感動に目を見開いた。埃と傷だらけの貧相な見目をしている自分を助けてくれる人がいたことに、コラジオは優しい人も世の中にはいるのだと知って嬉しかったのだ。
感動のままにコラジオは青年に詰め寄って手を取ると、ブンブンと握手を交わしながら頭を下げた。
「本当に感謝する! あのままじゃ、俺っちは殺されてたんだ! でも、あんた……えっと」
「フェクトと申します」
「うん。じゃあ、フェクトの旦那で! 旦那は巻きこまれなかったか? 俺っちは一応盗人として冒険者に追いかけられてたんだ。下手に庇えば、旦那も悪者扱いされちまう」
感謝の気持ちを全身全霊で伝えながらに、コラジオはフェクトの身を案じる。冒険者が組合によって統制された機関であるからと言えど、本質は力自慢の荒くれ者集団だとコラジオは知っていた。依頼や組合の規則に冒険者は忠実だが、盗人を庇う者に手を出すことは躊躇わないだろうとコラジオは恩人の身を心配したのだ。
「大丈夫でしたよ。私は【ひっそり】と貴方の手当てをしておりましたので、冒険者様方も気がつかずに去ってしまいました」
「そっか、それなら良かった。って、そんなことあるか! 十字路に隠れる場所はなかったはず。冒険者達が俺っちを見逃すはずはないだろ!」
一度頷きながらもコラジオは即座にフェクトの言葉を否定する。常識的に考えて、フェクトの説明通りになることはありえなかった。しかし、フェクトに傷一つないのも事実。コラジオは「んー」と唸って、そこで考えるのをやめた。
フェクトが恩人であることは間違いなく、無事であるのだから問題はないのだ。人をまず信じる。それがコラジオの生きる指針だった。
「まぁ、いいや。とりあえず俺っちはコラジオってんだ。盗人扱いはされたが、生まれてこの方一度だって悪いことはしちゃいない。改めて、助けてくれてありがとう」
「はい、どういたしまして。貴方が本当に困っているようでしたから、助けただけですよ。お身体が治るまではこの店にいて構いませんので、どうかゆっくりしていってください」
新しい包帯を箪笥から取り出したフェクトはにこりとコラジオに微笑みかけた。けれど、コラジオは首を横に振る。コラジオにはしなければならないことが山ほどあった。
「いや、俺っちはもう出てくよ。隠れ家の様子も見に行かなきゃならねぇし、盗人もどうにかしないと。お礼は後で必ず持ってくるから、それじゃ!」
寝台から降りてコラジオは寝室を出ようと歩を進める。ズキリと足の傷が痛み、コラジオは顔を歪めた。それでも、コラジオは仲間の安否を確認しに行くことを優先する。
「わかりました。では、ご武運を」
「おう! ありがとな、旦那!」
元気よく返事をしたコラジオは寝室を抜け、室内から外へと出た。
照りつける日差しが眩しい。昼も過ぎたくらいの陽気。追いかけられていたのは雑用仕事を終えた後の夕方だったとコラジオは憶えていた。少なくとも一晩は寝台を借りてしまったのだと気がついてコラジオは感謝の気持ちを胸に、出てきた家を振り返る。
そこで初めて、自分が逃走中に偶然見つけた効果屋という建物にいたのだと知った。
「結局、ここに迷惑かけちまったんだな」
後でお礼をするためにも場所を憶えておこうと、コラジオは裏路地の道筋を記憶に残しながら貧民街の隠れ家へ向かう。その間にコラジオが考えていたのは仲間のことだ。
コラジオの仲間達が、盗人の仲間として扱われていないかが心配だった。隠れ家には複数の仲間がいる。けれど、前回帰った時には荒らされた隠れ家に誰もいる様子はなかったのだ。
冒険者達に捕まえられたのか、危険を察知して避難しているのか。後者であることを願いながら歩く間に、コラジオは隠れ家へと辿り着いていた。
「この様子だと、誰もいないか……」
隠れ家を覗いて、中の様子が前回同様に荒らされたままであることを確認してコラジオは不安に息を漏らす。
「コラジオ兄ちゃん……?」
心配に胸を痛ませるコラジオの背後で、少女の声が小さく響いた。
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