第3話 女の子であること
〜最悪なお見合い〜
「ほらほら、小園。ちゃんと身支度なさい。」
私はそのお見合いとやらを5回ぐらい破局を自分からしてこれで6回目。
せめてもの心得として母から上等な着物を着せられ、とても長い一つに結ぶ髪の毛を解かれて綺麗に結われる。
「うげぇ。」
ちゃんとすれば美人になるというのにいやいやで仕方のない私はこの嫌そうな顔になるので全てが台無しとなる。
女の子というものは大変だといつも思う。
綺麗にしていなくてはならない。上品でいなければならない。
その2つも備わっていない私はもう終わりだ。
おまけに家事全般だめ。そんな私がお嫁に行けるはずもなく...。
―――・・・
「宮本小園です!得意なことは剣術。家事全般下の下なのでもう諦めて帰ってください!」
「こら!小園!」
「いってぇー。」
毎度のように小突かれる小園。だって早く終わって欲しい。
この綺麗な服も髪も全てが私には似合わない。
「すみません。うちの娘が。」
と言って頭を下げさせられる。
別に私は何も悪くない。慣れないことさせやがって。
「いえいえ、そんな。」
と、相手の母親はいいつつも
「はぁ、もうやめましょう。」
「そうだな。こんな可愛げがない人を愛せる自信があるまい。」
と小声で言っているのが聞こえる。
聞こえてるっつうの。
相手の小声での話し合いを聞いているうちの母親はため息を付きながらもどうにか話し合いをしようとするが、私は堪忍袋の尾が切れ怒鳴りつけるようにそいつらに悲しまぎれに言い放つ。
「私だって、こういうのがもし得意だったらとか思ったよ!なのに興味が出るのはいつも剣術だとか刀とか、仲良くなるのはいつも野郎ばっか。それをお前らはいつも否定しやがって。少しでも私を認めてくれ、苦手なものは苦手なんだ。嫌いなものは嫌いなんだよ。お嫁に行くなんかこっちから願い下げだ!」
最後の方は涙声になりながらも最後まで言い放ち、髪の結われた紐を引きちぎりその場を後にした。
〜心の救い〜
あの場から誰もいない薄暗がりの建物と建物の間にうずくまって泣いていた。
「嫌い。嫌い。皆大っ嫌い。みんな私を馬鹿にしやがって。いいじゃんか。女が剣術好きになったって。苦手なものは苦手なんだよ。くそっ」
綺麗な着物は汚く泥まみれになり、草を素手で怒りと悲しみに負けせて引きちぎる。
そんな荒れた姿を見た猫は怖がって「ニャー。」と喚いてどっかに逃げた。
「はぁ」と一息して蹲ると、足元に影がかかるのが見えた。
誰だという警戒心とともにバッと顔を上げると見覚えのある顔にびっくりした。
「小園ちゃ〜ん。偶然だな。なんだ?綺麗な着物、似合ってるのにもったいない。お顔がグチャグチャじゃんか。どうした?」
昨日、『私を殺せ。』と意味の分からないことを言ってきた青年、恒成だった。
昨日と同じ調子で話してくる。それが今はホッとした気持ちになるのが不思議でならない。
「なぁ、私は女じゃないんだってさ。」
お見合い相手の二人の会話が頭をよぎる。
『あんは下品なお嬢さん、言うことが女性ではないわ。』『あぁ、もう少しましな言い方はできないんかな。』
自分でも分かっているけど、それでも心に刺さってしまう。割り切れない。こればかりは。
「小園ちゃんは可愛いよ。昨日の赤面はとくに。」
「馬鹿にしてんだろ。」
「そうそう、そういうすぐ沸点に到達するところも。」
そう言って笑う恒成。
私は柄にもなく顔に熱が集まる。だって、「可愛い。」とか普段言われないし。
「お、照れてんのか?」
「なっ。」
こんなやり取り初めてした。こんな心が救われたのも初めてだ。
「そんなことより練習すんだろ?着替えて特訓だ。」
「お、おう!」
〜特訓一日目〜
「え、えっと。こんにちは。なぁ、恒成。この街に来たのて、昨日だよな?」
頭に「?」を浮かべてにっこりとした顔をこちらに向ける恒成。
「こんな綺麗な剣道場を借りれた?そして、こいつらは誰だ?」
目の前で盛大に喧嘩している男性二名。この人達は私と年齢は同じと見た。
「うっせ。」とぼやく私を認識したその二名は私の元に駆け寄ってきた。
なんだ。なんだ?
「おーこの子が新入生か!うちは天然理心流でやってるが、大丈夫か?」
「結構可愛い子が入ってきたな。宜しくな。」
あれ、片方は男装してる女だ。私ほどではないが、それなりに長さのある髪の毛を一つに結んでる。どうしてわざわざ男装を?
「お、おう。」
内心慌てふためく私は恒成に横目で見ると彼はにっこりと笑って自慢げに言った。
「私の話術と愛想笑いにかかればなんとでもなる。そしてこいつらは一緒に練習する仲間だ。友達は多い方が良いだろ?」
「は、はぁ。」
気の抜けた返事をしながら剣道場内を見渡した。
そしてふと思った。私はとんでもない奴と関わりを持った。そんな気がしてならなかった。
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