第114話:賢者は反撃の狼煙を上げる
「はぁっ……はぁっ……」
簡単な回復の魔法を己の体に使って立ち上がる。
一度殺したからか惜しみなく骸人形を展開し、まるで狩りのようにこちらを追い立てて来る骸人形の大軍団。
彼女は殺した者の体を操るのだという。だとすれば、いったいどれほどの命を奪ってきたのだろうか。
そんな危険人物がいる組織が世界を手中に収める?
アホかと。誰がそんなもの許すか。
「さっすがお兄さん♪ すっごく頑張ってるね♬」
「次の一刀で屠る。これで終わりだ……!」
竜のような爪をカチカチと鳴らし嗜虐的な笑みを浮かべるアンフェに、剣の切っ先を俺に向けるキース。
その周りには剣を構えて、魔法を展開した手や杖を向けている骸人形。
流石にちょっと笑えない状態だわこれ。
壁際に追いこまれ、すでに退路もない。
更には体もボロボロの満身創痍ときた。この状況から入れる保険とか教えてほしい。
「はぁっ……まったく、冗談言える元気もねぇわこれ」
「あら、まだ喋れる余裕があるなんて驚いたわ? 無様に逃げ回っていただけのことはあるわね」
「煽ったところで何も出ねぇよ……はぁっ……それに、俺は賢者だからな。後ろから援護するのがメインの奴が、前に出る方がおかしいんだよ……」
「そう言う割には、随分と激しく攻めてくれたじゃない。そういうの、嫌いじゃないけどあなたは殺すわ」
俺も好みでもなんでもねぇよ馬鹿野郎。
内心で吐き捨てる。
あの数相手に、重傷を負わずにいられただけでもよくやったと自分を褒めてやりたいくらいだ。
それに逃げ回っていたとはいえ、骸人形もそれなりに数を減らしている。特に妖精の骸は全て跡形もなく破壊しておいた。
これで、白神達が目にすることもないだろう。
その分、無理をしたのも否定はできないが。
『皆の者、油断はせぬように。死に際の足掻きほど怖いものはあるまい。特にそこの者は油断ならぬ。最大限の注意するのだ』
「承りましたわ、キング様。そうですわね……目を残すのなら、晒し首にでも致しましょう。
「ちょっとクイーン。後で私の物にするんだから、そんな雑な扱いしないでよね」
「アンフェ、そんなことを言ってる場合ではないだろ。キング様の命だ。さっさとやるぞ」
「あ~んもうっ、キースに言われちゃったぁ~。……うふふ♬ そう言うことだから、ごめんね? お兄さんっ♪」
顔の前で凶器と化した両手を合わせながら、茶目っ気たっぷりに謝ってみせるアンフェ。
そしてクイーンの「やりなさい」という合図とともに、周りの骸人形の剣が、魔法が。そしてアンフェの爪とキースの剣が迫る。
死に際には走馬灯が見えるという話を聞いたことがあるが……せっかくの最後ならフィン達との思い出に浸っていたいものである。
まぁこれで走馬灯なんか見たら、怒りそうなやつがたくさん出てくるためそれはまた別の機会にしてもらいたい。
「解除」
カツン、と杖で床を小突く。
言ったな、死に際の足掻きが怖いと。
一つ言っておきたいのだが、俺は今この状況を死に際だなんて考えていない。お前らの勝手な妄想だ。
ザシュンッ……!! と体切り裂く音と魔法の着弾音があちこちから響いた。
そして同時に舞う血飛沫のように噴き出す闇とバタバタと倒れ行く体。
「……へ?」
「……な、に?」
先ほどまで俺のすぐ傍から襲い掛かろうとしていたアンフェとキース。
その二人はたった今、俺から離れた場所でお互いの体を剣と爪で切り裂いていた。
「……何をした、人間」
そして異変が起きたのはアンフェとキースの二人だけではなかった。
二人と同じように俺を狙っていた骸人形の大軍団。
その骸人形たちがお互いを攻撃して同士討ちをしたのだ。
「答えなさい……!! 何をした……!!」
「ははっ……おいおい、そう怒るなよ。皺が増えるぞ?」
ここぞとばかりに煽ってみせれば、さらに怒り心頭と言った様子のクイーン。
そんな彼女を落ち着けるためか、再び声が響く。
『……やはり、何かしてくると思ったが……そういうことか』
「キング様、どういうことですか……?」
『奴め、余にも気づかぬように位置を入れ替える魔法を仕込んでおった』
またしてもしてやられた、と悔しくもなさそうな落ち着いた声。
声の主の言う通り、俺がやったのはそれだけの話である。
自前の魔力による『隠蔽陣』を使って、こっそりと仕込んだ『空間置換陣』。例えば、アンフェの目の前の空間とキースの位置を入れ替えたりだな。
これを骸人形全体でもやれば、勝手に同士討ちが起きる。
バレないように一つずつの仕込みであったため、ここまでするのに余計なダメージも負った。が、最後に決まったのならば全部OKだ。
「ご名答、俺のが作った結界だ。解除も俺の自由だが、どこに何をどう仕込むかも自由なんだよ」
『隠蔽陣』が使えることが分かった時に思いついた作戦だ。
うまくいけば一気に戦力を削れる。
しかし、そのためには『隠蔽陣』を用いた工作を控えなければならない。やりすぎて警戒心を抱かせる、あるいは種がバレるのは避けたかったからだ。
「キース! アンフェ! さっさとそいつを殺しなさい! すぐに!」
「わかってるわよっ! お兄さん、面白いことやってくれたねっ!!」
「やはりお前は殺す……!!」
爪と剣をお互いの体から引き抜いたアンフェとキース。
癒しの力でも働いているのか、傷口に負のエネルギーが纏わりつき徐々にその傷が治っている。
しばらくすればまた動けるようになるだろう。
そうさせないためにも、追撃を駆けるべきなんだが……残念なことに、マナではなく魔力で仕込んだため、賢者としてかなりの魔力量を誇る俺でも魔力切れだ。ろくに動けん。
「……殺されるのは勘弁だよ。けど、お前らの相手は今から俺じゃなくなるんだわ」
右目に青い魔法陣を浮かばせながらすでに扉が崩れた入り口を見やる。
すでに見慣れた色の三人が駆け付けた。
「先輩!! 無事ですか!?」
「なんとかなぁ……」
真っ先に叫んだ白の騎士に向けて手を振ってやると、あからさまにほっとした様子で息をついていた。
そのまま傍まで駆け寄ってきた三人とアルトバルトが、俺の前に立ちはだかる形でアンフェとキースに対峙した。
「国王は?」
「ラプスちゃんが安全なところに運んでるよ。運んだら合流するって」
「あいつで大丈夫なのかねぇ……」
ちょっと心配な気もするが、まぁここに来られても隙を突かれて盾にされてしまえば本末転倒だ。
白神の手を借りて立ち上がった俺は、『保管陣』に素早く手を入れて中の物を取り出す。
「先輩、それは……?」
「魔力を込めた宝石だ。もう魔力切れなんで、その補給だよ」
街中から、あるいはエルフ耳ことプリッツから集めに集めた転移用の魔力を込めた宝石。
世界樹を使用できるのならここである程度使ってしまっても問題はないはずだ。
本命はあっちの世界での戦い。それまでに半分以上を残せていればいい。
「それじゃまぁ、さんざん俺一人をいたぶってくれたんだ。今度はこっちから攻めるぞ三人とも!」
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