第12話 七瀬川さん大丈夫かな
「ただいま……」
元気無く玄関の扉を開けると玄関にはラキ姉ぇとクリ姉ぇがタオルを持って、待っていてくれた。
「大丈夫……じゃないわね」
ラキ姉ぇの言葉を聞いた七瀬川さんは玄関先にしゃがみこみ、顔を膝に埋め、泣き出してしまった。
肩を震わせ泣いている七瀬川さんを、ラキ姉ぇはそっと抱きしめ
「大丈夫、大丈夫だからね……」
ラキ姉ぇの瞳にも涙が溜まり、優しく包容し彼女を立たせると、バスルームへと二人でゆっくり歩いて行った。
廊下にポタポタと七瀬川さんから落ちる雫を見て、俺は居た堪れなくなってきた。
「ほら、桐芭も体をよく拭いて着替えてきな」
「う、うん」
でも俺は動けずにバスルームの方を見ている。
「ラキ姉ぇに任せておけば大丈夫だよ。桐芭も早く着替えないと風邪引くよ」
クリ姉ぇがそう言って渡されたバスタオルで、俺は服の水気を取り二階の自室へと行った。
濡れた服を下着から着替え、二階のシャンプー台で頭を温水で洗う。温かいお湯が気持ちよく、少し元気が戻ってきた。
ドライヤーは脱衣場の洗面台に置いてあるため、流石に取りに行く事は出来ない。
タオルドライで頭を拭きながらリビングに行くとクリ姉ぇしかいなかった?
「あれ? ラキ姉ぇは?」
「芭月ちゃんと一緒にお風呂に入ってるよ」
「はい?」
「芭月ちゃん落ち込んでたから、一人には出来ないでしょ」
「あっ、そうか。流石はラキ姉ぇ」
「ホットミルクでも飲む?」
俺が返事をするとクリ姉ぇはキッチンへと向かい、入れ替わりに俺がソファーに座る。
……七瀬川さん、大丈夫かな?
テーブルの上に電子レンジで60度に温められたホットミルクが置かれた。
「ありがとう、クリ姉ぇ」
クリ姉ぇの顔にもいつもの元気がない。七瀬川さんの気持ちを考えると、俺はこの後、どう対応したらいいんだろうか……。
ホットミルクの入ったマグカップを両手で持ち、ゆっくりとミルクを口に入れる。
程よい温度のホットミルクは体を少し温めてくれるが、俺の気持ちは温かくはならなかった……。
『キャァァァァァァァァッ!』
バスルームからラキ姉ぇの悲鳴、いや、どちらかと言えば喜鳴な感じの悲鳴があがる。
俺とクリ姉ぇはリビングから廊下に出た所で声をかけた。
「どうしたラキ姉ぇ!」
「何でもないッ! 来たら殺すッ!!」
いやいや、七瀬川さんが入っているバスルームには行けないでしょ。
俺達はリビングに戻りソファーに腰掛けた。
「良かっね、桐芭」
「何が?」
「さっきの喜声。何があったかは分からないけど、ラキ姉ぇが喜んだ時に出る悲鳴だよ。芭月ちゃんと仲良くお風呂に入っている証拠だね」
「アハハハ。確かに」
そして20分程がたち、俺はコーヒーをいれて七瀬川さん用に用意していたお茶菓子にも手をつけていた。
「遅くない?」
「女の子同士、色々と話ししてるんじゃないかな?」
クリ姉ぇはそう言うが、少し心配になってきた。
「久莉彩ぅ~~~」
バスルームからラキ姉ぇがクリ姉ぇを呼んでいる。
「私のブラジャー持って来て~~」
ラキ姉ぇ~、ブラジャー持って行くの忘れたのか? 日頃、裸でうろついているからなぁ~。
……不安だ。めちゃくちゃ不安だ。ラキ姉ぇ、まさかブラとパンツで出て来ないだろうな?
「は~い」
クリ姉ぇがラキ姉ぇのブラジャーを届けにリビングから出て行く。そして帰って来たクリ姉ぇは暗い顔をしていた……。
「クリ姉ぇ、どうした?」
「……芭月ちゃん、あたしのブラじゃ小っちゃいって……」
ブホッ!
俺は飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになり、無理して口を閉じたので鼻に思いっきり入ってきた。
クリ姉ぇのブラが小さいぃぃぃィ!?
クリ姉ぇのブラのサイズは知っている。普段から彼方此方に脱ぎ捨ててあるのだから、否が応にもサイズは分かってしまう。
けっして小さなサイズではない。しかし七瀬川さんはそれよりも大きい!?
「はぁ~。芭月ちゃんは着痩せするタイプか~」
バスルームからドライヤーの音がする。それから10分程度でバスルームの扉が開く音がした。
既に時計の針は11時手前を指している。かれこれ4、50分はお風呂に入っていた事になる。
リビングの扉が開きラキ姉ぇと七瀬川さんが入ってきた。
七瀬川さんは、極太赤縁眼鏡が湯気で真っ白に曇っていたが、頬には赤みが戻っている。少しは元気を取り戻したと思いたい。
濡れた服を着替え、薄い水色のブラウスと白いレースの付いた薄いピンクのフィッシュテール風のスカートを着ていた?
何故この様な可愛い服が我が家に!?
って言うか……可愛い……。
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