第2話 葵原美人
「ただいま~」
家の灯りがついていた。両親は俺達を置いて海外で働いている。つまり2コ上のクリ姉ぇが帰って来ている証拠だ。
「お帰り、
相変わらずガッカリだ……。
「服着ろよッ!」
俺と同じ
「まだまだ残暑が厳しいからね~」
「理由になってないから!」
俺は手洗いうがいをして2階の自室に上がった。
「桐芭~。今日はラキ姉ぇ帰って来るって~」
下からクリ姉ぇの声がする。ラキ姉ぇは六コ上の姉で普段は会社近くのマンションで暮らしている。
「クリ姉ぇ、リビング片付けとけよ~! ラキ姉ぇに怒られるぞ~!」
俺は部屋着に着替えながら、1階にいるクリ姉ぇに大声で言ってみるが……。
「桐芭、片付けといて~」
はぁ~、クリ姉ぇは人に甘く、自分にも甘い。自由奔放な性格は気が向かないと部屋の片付けをしようとしない。
しかし、ラキ姉ぇは人に厳しく、自分には甘い。自分が部屋を汚す分にはダラダラだが、人が部屋を汚す事には寛容しない。
俺は溜め息をつきながら階下に降りた。
ガッカリだ……。
「クリ姉ぇ! 脱いだパンツぐらい片付けろよ!」
「今、シャワー浴びてるから片付けといて~」
うちの生徒が見たらさぞかしガッカリするだろう。
リビングにはミス葵高のクリ姉ぇが今しがた脱いだであろう、ブラウスにスカート、パンツにブラジャーが、ポテチを食い散らかし、手を拭いたティッシュ等と一緒に散乱している。
金山に以前この悲惨な状況を話したら「是非見たい!」と言っていたが……。バカかアイツは!
片付けが一通り終わった頃に「ただいま~」とラキ姉ぇが帰って来た。ギリギリセーフだった。
「おうおう、これは今しがた片付けたな~」
状況をひと目見て理解したラキ姉ぇがニヤリと笑みを浮かべる。
「散らかしてるのは俺じゃないからね」
「ニャ~ゴ、ニャ~ゴ。猫さんが散らかしているのだ~」
ソファーで寝転ぶ下着姿のクリ姉ぇが、いる筈もない猫のせいにしている……っていうかさぁ、服着ろよ!
「晩御飯はどうするの?」
「やっべ! 掃除しててご飯炊くの忘れてた」
「んじゃ、久しぶりに3人揃ったし外食に行こうか」
ラキ姉ぇが建設的意見を言うが俺は嫌だった。
「よっ」と言ってクリ姉ぇがソファーから立ち上がる。
「ラキ姉ぇが一緒なら気合いいれますか~」
クリ姉ぇは着てもいない服の袖を捲し上げる様に気合いを入れる。
俺は溜め息しか出なかった……。
◆
はぁ~、だからやなんだよ……。
駅前通りの繁華街へと繰り出した俺達だが、擦れ違う人達は必ずラキ姉ぇとクリ姉ぇを見て足を止める。
ミス葵原市のラキ姉、ミス葵高のクリ姉ぇ。葵原市のツートップと言っていい二人が並んで歩いているのだ。
「葉月姉妹だ!」
「すっげぇ美人」
「
「流石は葵原美人だな」
男も女も関係なくスマホで姉二人を撮りまくっている。
俺はそのフレームに入りたくはないので、距離を取って歩いていた。
そして行き着く店は……
「おっ! いらっしゃい! 美人姉妹!」
俺達は行き付けの駅前立喰い蕎麦屋に入った。
カウンターで蕎麦を食っていたサラリーマン達は箸を止め呆然としている。
3人で行く外食と言えば立喰い蕎麦。
どうせ立喰い蕎麦なんだから気合い入れて化粧とか、よそ行き衣装とか着ないで欲しい。
「へい、お待ち~」と出された、いつもの竹輪天ぷら蕎麦3つ(おじさんサービス卵入り)。
俺達はカウンターに並んでズズズーと蕎麦を食べた。
◆
「昨日出たんだって!」
「葵コミのアクセス件数鰻登りだって!」
「あ~生葵原姉妹見たかった~」
教室では昨夜の我が家の外食ネタで盛り上がっている?
「桐芭~! お姉さん達と外食する時は連絡寄越せよなー!」
金山が俺に覆い被さりながら首に手を回したくる。……苦しい~。
「そうよ葉月君! お姉様達とのお出掛けは、クラスのライン連絡網に上げる事がクラス委員会で決まったじゃない」
クラス委員長迄もが俺を追い込んで来るよ?
「そうだぜ桐芭、次はちゃんと連絡しろよな」
「いや、しかし、外食って必ず立喰い蕎麦だぜ……」
しかしクラス女の子達は何故かうっとりした目になっていた?
「はぁ~、美人姉妹のお姉様と立喰い蕎麦、何て甘美な響き~」
「アンバランスがたまらないわ~」
「ガハハハ~! 女子共よ! この写真が目に入らぬか~!」
金山がスマホの写真を悠然と女子達に見せびらかす。
チラッと見えたその写真は、俺達が立喰い蕎麦をズズズーっと食べている写真だった。
「オヤジがたまたま居合わせて撮った奇跡の1枚だー!」
女子だけではなく男子も含め金山の周りに集まって、ヤンヤヤンヤの騒ぎとなった。
はぁ~。
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