全てを諦めていた僕は、君と出会って再び夢を追い始める

ふぁいぶ

第1話 橋本 千明は絶望している


 人間には大きく分けて二種類に分類される。

 一つは、陽キャ。

 彼らはとにかく明るくて、大きな声を上げて常に楽しそうな声を上げている。

 話題も豊富で会話も尽きる事なく、放課後は大抵複数人で何処かへ必ずと言っていい程出かけている。

 毎日よくそんな遊びに行く場所があるもんだなと、本当感心している。


 もう一つは、陰キャ。

 陰キャは陽キャとは違って、積極的に人と関わろうとしない。

 自分の世界を作り上げ、読書なりゲームなりして自分の世界を時間が許す限り楽しむ。

 もし共有できる友人がいれば、静かにその話題で楽しむが決して大人数ではない。

 所謂少人数精鋭の友人を作って、素晴らしい時間を過ごしている。


 陰と陽。


 人間社会においてはこの二つが上手く割り当てられている。

 本当に上手く出来たシステムで、陽は陽でグループを作り、陰でグループを作る。

 そしてお互いのグループに必要以上に干渉しない。

 この分類が上手くシナジーを起こして、円滑に社会は進んでいく。

 陰と陽を最初にシステムに組み込んだ人間は、本当に神なのだろう。


 しかし、人間が作り出すものに完璧なものは存在しない。

 陰と陽で大まかに分類されるが、イレギュラーも存在する。

 それが僕、橋本はしもと 千明ちあきだ。


 僕はどちらのグループにも所属していないと言えるだろう。

 陽キャのように常に誰かと話している訳でもないし、放課後誰かと遊びに行ったりしない。

 陽キャのように自分の世界を作って趣味に没頭する訳でもない。

 ただ僕は、その場にぽつんといるだけ。

 このクラスだけで言うなら第三の分類に割り当てられるだろう。

 

 そのグループは、"無"だ。


 ただただ、机に座って授業を大人しく聞き、最低限の成績を取り、何処かに行くわけでもなく真っ直ぐに帰宅する。

 クラスメイトからも話しかけられる事もなく、ただ置物のように自分の席に座っているだけ。

 休み時間もずっと空を見てぼーっとしているだけ。

 最初の頃は陽キャグループが話しかけて来ていたのだが、それに反応する気力も起きなかったので無視をしていたら、その内虐められるようになった。

 しかし虐められても全くの無反応だった俺は、ついに空気どころか本当にいないもの扱いされるようになった。

 それでいい、僕は誰とも話したくないんだ。

 ただ、世界で最も価値があると思われる"時間"を無駄に浪費し、惰性で生きていく。

 そんな居ても居なくてもいい存在でいいんだ。


 本当は死ぬ事も考えた。

 が、結果はご覧の通り失敗に終わった。

 そして家族に死ぬ事はやめてくれと泣きながら懇願されたので、仕方なくこうして生きている。

 こんな僕でも、少しだけど家族に対する情はあるんだ。

 

 何故こんな風になってしまったか?

 仕方ないじゃないか。

 好きな事も奪われて、死ぬ事も許されない。

 他に夢中になれるものだって見つからない。

 そんな世界なんて、生きてて何が楽しいというんだ?

 本当に生き地獄なんだ。


 ここまで来ると何となく察していると思う。

 僕は、この世界に激しく絶望している。

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