髪が長い博士と助手の話


「あぅー、今日も暑いな~。」


僕と博士しかいない研究室では、今日も博士の情けない声が響く。


「確かに今日も暑いですね。でも、博士の熱い原因はその長い髪にもありそうですね。」


「うん?これか?」


博士は自分の長い髪をファサーと撫でる。


「うーん、確かにそうだな。これの所為で湿気や熱がこもっているのかもしれない。」


「多分そうでしょう。何でしたら、今切りますか?」


「いや、切るのはな~。ここまで伸ばしてきたから逆にどこまで伸びるのか知りたいのだよ。」


「……研究者ですね。それじゃあ、どうしましょうか、うーん……、あっ、そうだ!」


「うん?」


「博士、ちょっと待っててください。多分10分ほどで帰ってきますから。」


「お、おう、分かった。」



そうして僕は近所のあるお店に走る。

多分あそこなら……

よし、やっぱりあった!

これを買ってっと。



「はい、只今戻りました。」


「うん、お帰り。それで何を買いに行っていたんだい?」


「これです。これを買おうと思って。」


僕は買ったものを博士に手渡す。


「これは……シュシュかい?」


「はい、これで髪をまとめたら少しは快適になるではと思いまして。」


「なるほど、それなら早速つけてみよう。そうだ、何なら君に結んでもらおうかな。」


「え、僕ですか?」


「そうさ、私1人じゃ、後ろが見えないからね。頼むよ。」


「は、はぁ、分かりました。」


そうして僕は博士の長い髪をシュシュを使って結ぶことになった。


……何と言うか少し緊張する。

髪を結ぶことは妹のとかをやったことがあるから別に大丈夫だけど、博士の髪に触ること自体が初めてだからな。


「うん?どうした?結ばないのか?」


「あ、はい、今から結びます。」


ええい、ままよ!

僕は少し緊張した手ぶりで博士の髪を結んでいく。



数分後




「おぉ!首回りが大分快適になったぞ。ありがとう!」


「いえいえ、それなら良かったです。」


「なんか快適になった分、やる気も出てきたよ。」


「それは良かったです。それじゃあ、さっきの実験の続きでもしましょうか。」


「うん、そうしよう!」


いやー、喜んでもらえたようで良かった~。






********






助手君、今日は遅いな。

うぬぬ、付き合ってもらいたい実験があるのに。


……それにしても、今日も暑いな~。

まったく、嫌になる。

でも、助手君がシュシュをくれた日から少し夏が過ごしやすくなった気がする。

首回りを変えるだけでここまで快適になるとは面白いな。


と言っても、これを自分で結ぶことが出来ないから助手君には早く来てもらわないと。

……手首にでもつけておくか。



「ふぅ、すいません、遅れました。」


「おぉ、助手君。やっと来たか、待っていたよ。」


「いやー、すいません。」


「早速ですまないがこの薬品を持ってくれないか?」


「どれですか?」


「あぁ、これだよ。今持っていく。」


博士は、少し足早くこちらに薬品を持って近づいてくる。


すると、薬品が入っていたビンの蓋が緩んでいたのか、いきなり蓋が開いて、薬品がびしゃっと博士にかかる。


「え」


「あ」


「は、博士大丈夫ですか?」


「あ、あぁ、これは別に人に無害な薬品だから大丈夫だよ。」


「無害とはいっても、薬品ですから気を付けてくださいね。」


「うん、……それよりも君から貰ったシュシュが……」


「あ、ホントだ。少し汚れてしまっていますね。」


「……」


「それにしても、博士がこんなミスするなんて珍しいですね。」


「……」


「……」


「……」


「えっと……、洗えば落ちると思いますよ。それに汚れを完全に落とす薬とか博士なら作れるんじゃないですか。」


「……そうか、そうだな。汚れを完全に落とすなら以前作ったアレが役に立つかもしれない。」


博士はまるで深淵の中で一握の光を見つけた冒険家のような顔をする。

いや、まぁ、そんな冒険家見たことは無いんだけどね。

なんとなくね。


「いや、その前に別のもので試しておきたい!助手君、何か汚れても良い布か何かを持っていないかね!」


「あぁ、えっと、このタオルでいいのなら。」


「うむ、ありがとう。それじゃあ、ちょっと試してくる!」


そう言って、博士はピュンッと何処かに走っていってしまった。




まさか、あの博士がここまで物を大切にするようになったとは……。


いや、それとも僕があげたものだから?

だからあんなにシュンとした顔を……




博士……、あなたと言う人は……




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