片結びと博士と助手の話
「助手君ー、コーヒーを淹れてくれー。」
僕と博士しかいない研究室では、今日も博士のそんな声が響く。
「はいはい、分かりましたよ。」
「その後は私の肩を揉んでくれ。」
「はいはい、仰せのままに。」
「そして、その後はここら辺の実験器具を洗っておいてくれ。」
「はいはーい。」
「はいは1回だぞ、助手君。」
「……」
いつも僕は博士にこんな感じでこき使われる。
……僕は別に博士のメイドでも何でもないんだけどな。
そろそろ、何かやり返したい。
……そうだ。
あることを思いついた僕はテクテクテクと博士の方に近づいていく。
「うん?どうしたんだい、助手君?」
そして、博士に抱き着く。
「……ほえ?じょ、助手君?き、君は一体何を……?」
「……」
「な、なんで私に抱き着いているんだい?」
「……」
「も、もしかして、急に私に甘えたくなったのかい?ま、まったく君にも可愛い所があるじゃないか。」
「……」
「ほ、ほら、思う存分私に抱き着いてみるとよい。」
博士がそう言ったところで僕はパッと抱くのを止める。
「ん?ど、どうしたんだい、助手君?私を抱き着きたかったのではないのか?」
「別にそういう訳じゃないですよ。」
「そ、それなら私に抱き着いたりして……、うん?」
そこで博士は自分の異変に気付いたのか、少し慌て始める。
「ちょ、ちょっとこれはどういう事だ、助手君!私の白衣の袖を片結びして……、ぐぬぬ、ほどけないじゃないか。」
「日頃のやり返しですよ。少しはその姿で反省してください。」
「うぬぬ、君と言う奴は!」
「はいはい、それじゃあ、僕は実験の続きでもしましょうかね。」
「コラー!ほどいてから別に部屋に行けー!私をほっとくなー!」
そうして、僕は片結びで身動きが取れない博士をほっといて実験の続きをすることにした。
……結局、博士が泣き出したので、ほどいてあげて機嫌が直るまで肩を揉んであげることになるんだけどね。
まったく、面倒くさい人だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます