57話 帝国軍狂操曲第二楽章
市場で一部の兵士たちが抵抗を続けていたころ、都市シャベドの中心部では迎撃準備が進められていた。
「ノームル三等将官閣下、部隊の配置が完了いたしました!」
「よし、屋内に隠れつつ戦闘を行うのだぞ!屋外に出れば二ホン軍の航空戦力からの攻撃でやられかねん」
「勿論であります!では、私も所定の位置へと行って参ります」
「うむ」
報告を終えて、部下が家から出ていく。家と言っても、窮屈で内部は縦横に5、6mしかないほどの狭さではあるが。
何故そんなところにノームルが居るのかというと、目立たない貧民の家に隠れることで、二ホン軍の航空攻撃の対象から逃れつつ、見つからないようにするためである。
勿論周囲の家には、護衛として数十名の兵士が居る。万が一ばれても、逃げる時の時間稼ぎくらいは出来るだろう。
「ふふふ、こんなところに指揮官が居るなどとは奴らも思うまい」
そんな風に彼がほくそ笑んでいると、コンコンとノックの音が聞こえてくる。
「ん?入って良いぞ!」
誰だろうかと思いながら、ノームルが許可をするが相手は一向に入ってこない。
「おい、聞こえんか!報告があるなら早く入ってこい!二ホン軍がそろそろ来てもおかしくはないのだぞ!」
半分怒鳴るような声でそう言うが、返事は帰ってこずにただ静寂のみが辺りを支配する。………
「お、おかしいな………おい!だれかおらんのか!」
周囲の家に兵士が潜んでいるはずである。ノームルの声に誰も反応しないのはおかしい。
「全く………何をやって………」
部下の怠慢に呆れながら、扉を開けて外の様子を見ると。
「は………?」
そこには、先ほど報告に来た部下が倒れていた。あたりを見回すと、そこかしこで兵士たちが多量の血を流しながら倒れている。恐らく、全員死んでいるだろう。
「も、もう二ホン軍にバレたのか!?………」
そう考えた彼だが、倒れている彼らをよく見ると、全員自殺であることに気付く。
民家の壁にもたれかかっている兵士は、自分の喉に探検を突き刺している。
道に倒れこんでいる魔法使いは、全身が焼け焦げている。自分自身に炎魔法でも使ったのだろう。
二人だけではない。数十以上の兵士が、都市に残っていた民間人までもが全て自殺をしている。
「ひ、ひっ………だ、誰か居ないのか!返事をしてくれ!」
何かから逃げるように、ノームルは必死に駆け回る。だがしかし、ゆく先々で彼の目に映るのは自殺によって生み出されたであろう遺体ばかりだ。
川を見れば、ぷかぷかと多くの人だったそれが浮かんでいる。
家の中を見れば、家族全員が首を吊っている。
道には、遺体が数えきれないほどに転がっている。中には、腸や臓物が腹から溢れ出ているものだってあった。
「ひ、ひいいいいっ………」
彼がそんな風に怯えていると、遠くから帝国軍の兵器とは違う爆発音や破裂音が聞こえてくる。
「助けてくれええええええっ!!!」
冷静な状態であれば、それが敵である二ホン軍であろうことに気付く筈だ。しかし今の彼には、敵か味方かなどどうでもよかった。ただそこに、生きている人が居れば良かったのだ。
走る。走る。走る。
靴が脱げようが、植物に足を絡ませて転ぼうが、ともかく走り続ける。途轍もない距離を走り続けていると………
「や、やった!人だ、生きている!生きている人だ!」
遠くに動いている人を見た時、彼は安心しきってそのまま倒れた。
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