第50話 連帝戦争、開戦
首相官邸
「総理、クラート王国を通じてナルカル連合から連絡が入りました。三時間後、開始するとのことです」
普段岸川が一人で仕事を行うこの部屋には、外務大臣の葉名と防衛大臣の木市が居た。
「そうですか………では、自衛隊もですか?」
岸川の質問に、木市は緊張をにじませながらも答える。
「は、はい………ですから………総理、宜しいですか?」
「構いませんよ。ただ、自衛隊に極力犠牲者が出ないようにお願いしますね」
「そ、それは勿論ですとも。ええ」
岸川と木市の会話が一旦終わると、今度は葉名が話し出す。
「それと、連合からの通達なのですが、帝国内への進軍はウィーヂオ山脈より北の地域なら見合わせることも検討するとのことです」
「北側はやっても良いということですか。ふーむ」
「最悪、空爆や敵艦隊の妨害だけにとどめて陸は全て連合に任せる手も………まあ検討したうえでこの選択ですよね、失礼しました」
「いえ、そういう手もあるにはありますからね。ただ、影響力下に収めた時、帝国のあの広大な土地と人の数は活用できるかもしれませんからね」
そう言った岸川は、何かを思案している表情であった。
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ジョール城
帝国軍の基地で、連合との国境付近にあるジョール城。巨大な城下町をとてつもない長さの城壁で囲んでおり、帝国の国力の高さをよく表している。
連合という大国を目の前にして厳戒態勢の敷かれているはずのこの城は、兵士たちのたるみによってほぼ無警戒となっていた。
「今日も、何もねえなあ。連合がうちとの貿易止めたっていうから何かあるかと思ったんだが」
「だからって戦争が始まるわけでもないからな。まあ、いざとなれば竜騎士の奴らが何とかしてくれるだろ」
見張り役のこの二人も、どうせ何も起きないという考えが根底に染みついていた。
帝国が連合と国境を接する小国を併合したために連合が国境を接したのが、およそ150年前。その時からジョール城はかなりの戦力が配置されているのだが、連合は平和的な国家がゆえに武力衝突は一度も起きていない。
帝国も普通の中小国相手なら容赦ない侵攻を行うのだが、相手は同格クラスの大国。お互いに何もしないうちに不可侵条約や通商条約が結ばれて、戦争の可能性がほぼ0になったのだ。
「いやあ、にしても連合の奴ら、今回は本気で頭に来たんだろうな。貿易停止まで行くとはねえ」
「なんか差別がどうのこうのとか、また言ってるんだろ?あいつらもよく飽きないよな」
「全くだ。どうせ貿易停止なんてしても物価が上がるだけなんだからよ、やめてくれりゃいいんだよ」
そんな風に二人が連合への愚痴を言い合っていると。
ザアアアアアア………
急に雨が降り出す。
「うん?お、おい。降り出したぞ!」
「こりゃ濡れちまうな。屋内に退避だ退避!」
見張りどころか軍人としても失格なレベルのやり取りをしている二人。そんな二人に………
ガッシャーーン!
「」
「」
突如として雷が襲い掛かる。雷が直撃するとは、なんという運のなさ………
ガッシャーーン!
また雷が、落ちる。今度はアークドラゴンが撃ち落とされた。
ガッシャーーン!
またまた、雷にアークドラゴンが………いや、これは雷ではない。
「な、なんだ!?凄い雷の音がしたぞ!」
屋内に居た帝国兵が、慌てて城壁へと出て外の様子を見る。
………確かに、雷に近い何かが空から撃たれていた。
電気の光線とでも言うべきそれを撃ちだしていたのは。
「ど、ドラゴン?………」
ドラゴンの最上位種であるサンダードラゴンだった。
「敵襲ーーーっ!ドラゴンだーっ!」
その声で、城内が一気に慌ただしくなる。
「まだこの辺りに野生のドラゴンなんて居たのか!?てっきり狩りつくしたもんだと………」
「バカヤロー!野生なんて有り得ねえよ。連合軍が攻めてきたんだ!」
「ふぁーあ。ねみー。………連合軍?それこそ有り得な………」
バタッ
起き抜けで眠そうだった兵士が倒れこむ。
「おいおい、起きろ!ドラゴンが来てるんだぞ!?」
別の兵士が起こそうとすると………
「え………」
倒れた兵士の額に、矢が突き刺さっていた。
「ひ、ひいっ!に、逃げ」
「へっ?え、ヤバいぞこ………れ………」
それを見て逃げようとした兵士たちも、次々と倒れていく。
この瞬間、ナルカル連合とアグレシーズ帝国が開戦したのである。
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